「偉大な先輩の教訓」とは
戦後の日本が復興し、高度成長を経て黄金の80年代において世界に躍り出た時代を担ったのは、松下幸之助や井深大、本田宗一郎さんなどの偉大な先輩たちでした。
かれらは、いずれも中小企業から出発して、血の滲むような苦労のなかで果敢に「ものづくり」の発明に挑戦され、みごとな商品を産み出すことで成功に到達したのでした。
ここには、大衆が欲するニーズに応え、さらには、それを十分に洗練させて世界をリードしていくトップ商品を開発し続けたことに、すばらしい巧妙さがありました。
かれらには、それらを見出す「小さくない直観と鋭い洞察」がありました。
この優れた直観力と洞察力は、戦後における中小企業から出発して大きくなっていった先達に共通していたのです。
ところが、この30年、この貴重な先達が残していった教訓が、ほとんど忘れ去られるようとしています。
その第一の契機が、1991年に起きた日本経済のバブル崩壊現象でした。
銀行や証券会社が潰れ、日本経済の屋台骨が次々と壊れ始め、いつしか「失われた10年」が、「20年」、「30年」と止めどもなく延長されていわれるようになりました。
その第二の打撃が、2008年に起きたリーマンショックであり、これによって日本経済の立ち直りは、ほとんど難しくなりました。
さらに、第三の止めがアベノミクスによってなされました。
この結末については、著名な経済学者の野口悠紀雄氏は、次のように述べています。
「結局のところ、アベノミクスとは、生産性を向上させることなく、非正規の低賃金労働に依存して企業利益を増やし、株価を上げたことだった」
ここには、日本経済における3つの「病んだ姿」を垣間見ることができます。
上述の先輩は、国民が欲する技術と商品を開発することによって生産性を向上させることで、日本と世界へ進出していきました。
すなわち、技術革新による「ものづくり」が「アジアの工場から世界の工場へ」と発展させる生産拠点を形成させる原動力になっていったのでした。
この「ものづくり」による産業革新こそが経済を活性化させる本道であり、ここでしか、強い経済を構築することはできません。
それでは、アベノミクスによって、大企業は、どのようにして利益を上げたのでしょうか。
その利益で強い経済をつくることができたのでしょうか?
その第一が、円安による利益確保でした。
何もせず、アメリカの株価の変動によって円安がもたらされ、自動的に輸出産業の利益が生まれたのですから、その経営者たちは、この魔法のような利益獲得に酔いしれてしまったようです。
しかし、その円安がいつまでも続くわけではなく、円高に振れる場合もあります。
そうなると、たちまちに利益が先細りますので、今度は労働者の実質賃金を下げることで、その利益を確保することに奔走したのでした。
ここで、その経営者たちに「悪魔のささやき」が届けられたのでしょう。
労働者を正規と非正規に分け、後者の賃金を大きく下げて雇う方式を取り入れたのでした。
これによって、実質の平均賃金は、この30年間にわたって下がり続けたのです。
その結果、賃金を下げられた労働者は、その分だけ物を買わなくなり、日本全体の消費が落ち込み、内需が衰退するという深刻な事態を招いていまったのです。
最後の株価の方は、どうだったでしょうか?
異常な株高が今も続いていますが、そろそろ危なくなってきて、プロのみなさんは、すでに「売り抜けている」という話まで出てきています。
この3月には、アメリカのFRBが金利を上げることを表明しました。
これが引き金になり、欧州においても、同じ引き上げが続くことでしょう。
これに呼応して、日銀も同じ歩調でいきたいところでしょうが、おそらく、それはほとんど無理でしょう。
わが亡きあとに洪水はきたれ
膨大な国債と株を買いすぎ、債務を抱えすぎたために、金利が上がることで、それらが暴落することを恐れて何もできないであろう、これが良心的な経済学者の予想のようです。
そうなると、かれらができることは、さっさと逃げ出すことしかないのではないでしょうか。
そして、最後には、有名な次の言葉が遺ります。
「わが亡きあとに洪水はきたれ!」
洪水は、地上の家屋、田畑のすべてを流し去ります。
跡に残ったのは、石ころと土、そして流木の山です。
おそらく、これに似た経済現象が、世界や日本で起こる可能性があります。
しかし、その現実を前にして、初めて、先輩たちの「ものづくり」の大切さと偉大さを骨身にしみて認識するようになるのではないでしょうか。
真に情けないことですが、それが現実なのかもしれません。
今や、一人当たりのGDPにおいて韓国に抜かれ、ほとんどの指標においてOECD38カ国の最下位をうろついている日本ですが、「もはや先進国ではなくなった」という状況を正しく見つめ直す必要があると思います。
その意味で、かつての先輩たちが遺してくれた、貴重な「ものづくり精神」を蘇らせ、洪水の後の日本を再生させるために、いまから取り組んでいく必要があるように思われます(つづく)。
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