「七島イ」産業革新の入口における二課題
 
 この課題のための最初の突破口(ブレイクスルーポイント)が、次の③と④に関することです。

 ③毎年、計画的に安定した生産量を十分に確保可能な「七島イ農作技術」において「未発達」な部分がある。

 ④七島イ「二期作」が、さまざまに試みられてきたが、いずれも成功には至らず、いわゆる「二期作ブレイクスルー」が実現されていない。

「二期作」問題の解決方法の探究(2)
 
 この探究において最も重要なことは、これまでの研究成果を踏み台にしながら実践的な栽培技術をより優れたものとして発展的に確立していくことです。

 その際、従来の栽培法の長所は最大限に生かしながらも、その短所については大胆に革新していくという手法を開発していくことが重要です。

 例えば、これまでの七島イは、自然環境のなかの田圃で栽培されてきました。

 それによって、七島イ農法が確立され、伝承されてきました。

 その営為は、大変すばらしいもので歴史的にも貴重なご尽力であったと思います。

 なぜなら、その伝承と維持には並大抵ではない苦労があったからであり、そのことは今もなお少ない方々によって語り継がれています。


 しかし、一方で、その従来法に拘っていたら、その技術的革新は困難であり、ここに伝統と新たな技術の融合問題が存在しています。

 たとえば、土耕による「二期作」については、地元の専門家をはじめとして少なくない方々によって試験されてきたことですが、その多くが、一期作の延長として二期作を実現させようとしたことから、結局は、一期作のみをしっかり栽培した方がよいという結果に終わってしまったのではないでしょうか。

 すなわち、一期作と二期作が、完全に分離され、その合計の生産額が二倍になるという最大のメリットを得るには至らなかったのです。

 その意味で、この二期作を実現するには、従来の一期作の延長としての二期作の考え方を創造的に破壊してしまう必要があったのです。

 この創造的破壊とは、どのようなことなのでしょうか?

 いったい何をすればよいのか?

 このような疑問が湧いてくるはずです。

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七島イの根と地下茎

 その最初の入り口問題として、自然環境の中の田圃での七島イの栽培をハウス栽培に切り替えて考えることはどうでしょうか?

 こう提案すると必ず出てくる話があります。

 それは、かつてあった杵築の農業試験場において、七島イのハウス栽培がなされたことです。

 それによれば、ハウスにおける土耕栽培によって七島イは確かに栽培可能であるが、問題は、その採算性にあり、要するにハウス内土耕栽培ではお金がかかりすぎることにありました。

 これは、おそらく何十年か前の話であり、問題は、それ以降、誰もその研究を発展させなかったことにあります。

 さらにいえば、大分県における重要な地場産業を継承発展させていく、いわば、車に例えればエンジンの役割を果たすような研究開発機関が育っていなかったことの反映ともいうことができます。

 さて、このハウス内土耕による七島イ栽培において採算性が確保できないという話を耳にしたときに、私は、次のように考えました。

 「そうであれば、それを聞いて諦めるのではなく、ハウス内栽培において採算性を確保できる方法を探究すればよいのではないか!」


 物事の創造的破壊を可能にするのは、「ヒトと技術」です。

 これは、諺の「鬼に金棒」にも相通じる話です。

 新しいものを生み出すには、鬼のようなヒトがいて、それが破壊力抜群の金棒を持つことが必要なのです。

 この金棒こそが新技術なのです。

 約9年前に国東にやってきて、七島イの話を聞いたときに、こう考えました。

 「そうか、鬼のようになって七島イのブレイクスルー問題を考え、光マイクロバブル技術という『金棒』を巧みに製造し、存分に振って試してみるのもよさそうだ!」


 じつは、私には、これに似た経験がありました。

 前職場のT高専にいたときに、テクノセンターの主催で講演会が開催されました。

 その講師に、新幹線づくりで有名なH大手企業の出身の方と私が選ばれました。

 その方は、自称「植物工場の創始者」だったようで、その話の中心は「大規模植物工場で儲ける」ことでした。

 周知のように、野菜一束は安いものですから、それを大量に生産して一挙に売りさばかない限り利益は得られません。

 これは、テレビや冷蔵庫を大量生産して販売する考え方と同じであり、テレビも野菜も同じだと見なしたからでした。

 しかし、大規模な植物工場を設置するには、1~10億円という大金が必要になります。

 この設備投資資金を20年かけて返していくのが、通常の返済計画だといわれています。

 このことは、20年間の長きにわたって利益のかなりの部分を、その返済に充てていかねばならないことを意味しています。

 そのために、運転維持費を可能な限り減らすことを余儀なくされてしまいます。

 少し前置きが長くなりましたが、私の前の講師の話の中心は、大規模植物工場において必要となる光源の節約問題に終始していました。

 完全密閉型の植物工場ですから、冷房に加えて光源の装置も必要であり、単価の安い野菜作りに、大規模な冷房装置と発光ダイオードが推奨されていましたが、その電気代が少なくなく、とくに後者においては、蛍光灯が一番安いので、それが一番良いというのが、彼の講演の最重要点でした。

   この講演をすぐ傍で聞きながら、いくつかの重要な疑問が湧いてきました。

 それらは、大規模化しないと植物工場は儲からないといいながら、実際には儲けていないのではないか、その成功の秘訣は蛍光灯にあるというのは、どう考えてもおかしな話ではないか、技術的に未熟な段階に留まっているのではないかなどでした。

 また、なぜ、小規模の家族経営が可能な植物工場について言及しないのであろうか、さらには、栽培する野菜の量のことには言及しても、なぜ質のことを追究してしないのだろうかとも思いました。

 これらの疑問は、かれの次に講演を行った私の、光マイクロバブル水耕栽培の実際とまるで好対照の結果だったから生まれたものでした。

 講演が終わってから彼と少し話をする時間がありましたが、なんだか彼はバツが悪そうな表情を見せていました。

 これが契機となって第三のブームを迎えているという植物工場のことを調べてみましたが、やはり大半は、彼の示した指向が大半であり、このブームは早晩終わってしまうと思っていたら、その通りになってしまいました。

 大企業にいた彼の指向と考え方が日本の現実に、まるで合っていなかったのだと思いました。

 そこで誰も探究しようとしない小規模な、家族経営が可能な植物工場の開発を行おうと決めました。

 そして、それを実践的に行おうとして、自前の植物工場を開発し、自分で野菜栽培を行う楽しみも味わうことができるようになりました。

 少々、横道にそれてしまいましたが、この小規模植物工場の開発と実際のアグリ作業の経験が、この七島イ栽培に相当に役立つことになりました。

 最初は、露天のまま中庭に水槽をおいて、その次には、ミニハウスを設置し、さらにその次には、ポリカーボネート製の6㎡植物工場に発展しました。

 これらに加えて、2017年からは、40㎡の断熱特性の優れた小規模植物工場を開発しました。

 せっかくの小規模植物工場の開発が可能になりましたので、それらにおいて七島イのハウスにおける水耕栽培研究を自然に行うことが可能になりました。 

    これによって、鬼(私)は、金棒(実践的で洗練されつつあった光マイクロバブル水耕栽培技術)を振るう土台を得ることができたのでした。

 次回は、その植物工場における七島イ栽培の問題に分け入ることにしましょう(つづく)。

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