大吟醸酒

 先日、九州の酒造メーカーから、ある「大吟醸酒」が送られてきました。

 その送付状には、冷やして飲まれてくださいという添え書きがありました。

 早速、その常温のままで試飲を行いました。

 次に、それに氷を入れて飲みました。

 その酒が冷えるまでの時間を惜しんだからでした。

 「試飲を済ませた後、ゆっくり冷やして、その時にまた試飲すればよい!」

と、思っていたからでした。

 このとき、それよりも少し前にいただいた純米酒が手元にありましたので、それとの比較を行いました。

 その酒は、「FU〇〇」と呼ばれる純米吟醸酒で、兵庫県で造られていました。

 その送り主からは、ノーベル賞の公式行事に選ばれた酒といわれていました。

 吟醸酒は、米の削りが60%以下のものをいい、大吟醸酒は、その削りが50%以下のものです。

 また、純米酒は、アルコールを添加していない酒であり、「大吟醸」酒では、それが添加された酒として分類されています。

 そこで、贈られていた大吟醸をKAと呼ぶことにしました。

 まずは、このKA酒の試飲の結果を先に示して、その比較に向かいましょう。

 常温でのKA酒の特徴は、その香りの良さにありました。

 おそらく、比較的によい麹菌が用いらているために、この「ここちよい香り」が生まれてきたのでしょう。

 このことからも、杜氏の苦心と工夫の跡が窺われました。

 しかし、その「ここちよい香り」を感じたことまではよかったのですが、それを飲み干した後がよくありませんでした。

 アルコールの嫌味を含んだ後味が悪く、それが、長く続くという、あまり評価できないことが起こりました。

ーーー この嫌味は、何であろうか?

 単に、アルコールが添加され過ぎた嫌味ではないように思えましたが、それ以上に詳しい分析ができませんでした。

ーーー この嫌味は、常温のままで飲んだせいであろうか?

 そこで、氷を入れて飲んでみたら、少々驚きました。

 氷で冷えて、相当に飲みやすくなっていました。

ーーー これは、どんどん飲めるようになった!

 飲んでいる最中においては、あの嫌味が無くなったように感じていました。

 しかし、それを飲み終えた後は、いくらかの軽減はあったものの、その嫌味成分は、口の中に残ったままでした。

ーーー やはりそうか!

 単に冷やしただけで、その嫌味成分が消えてしまうわけではないことを、よく理解することができました。

ーーー 氷水に近い温度まで下げてしまうと、なぜ、あの嫌味が軽減されるのであろうか?

 今度は、新たな疑問が湧いてきました。 

 その疑問とは、次のような想像から生まれたものでした。

 「この酒のなかには、香りを有するアルコールと水の成分が混合された状態で存在している。

 アルコールと水の分子成分を比較すると、前者の方が圧倒的に大きいので、おそらく、その香り成分も、そのアルコール分子に乗っかっている可能性が大きい。

 これに、氷が加わると、そのアルコール成分と水が一気に冷え始める。

 もともと、アルコールは、その度数が高いと凍らないという性質を有しているので、アルコールよりも水の方が冷水に反応しやすいはずである。

 周知のように水は、冷えると重くなるので、その氷の周辺の水分は、一番重い4℃に近づいていくはずである。

 おそらく、この水の成分の温度変化によって嫌味成分が閉じ込められたのではないか?」

 その後で、このKA酒を冷蔵庫で冷やしてから、じっくり試飲しましたが、氷を入れた時ほどの飲みやすさはありませんでした。

 そして、飲んだ後の嫌味は消えないままで、しばらく口の中に残ったままでした。

ーーー やはり、そうか。温度変化によって、嫌味成分は多少軽減できても、それを取り去ることはできないのだ!

 そういえば、前に、北陸地方から送られてきた試飲酒にも、同じような傾向があった。

 この結果は、嫌味が残る酒は、キレが悪いことでもあることを意味していました。

 この経験を通じて、「キレの悪い酒」に出会うことで「キレのよさ」の大切さを学ぶことができました。

 「キレがよい」という意味は、「嫌味があったら、それをすぐに消すことができる」ことも含まれていたのでした。

 ところで、上記のFU酒には、この嫌味が残ることは、あまりありませんでした。

 これは、その意味で「キレの比較的よい」酒だと判定することができました。

 さすが、ノーベル賞の公式行事における選ばれた酒だという理由がよく解りました。

 さて、問題は、その嫌味とは何なのか?

 これを探究することでした。

 次回は、この問題に分け入ることにしましょう(つづく)。

おおいちょう
大イチョウ