すぐに見破られる一見「巧妙なトリック」
一見巧妙ですが、すぐに見破られる「トリック」を使って、大量に売りさばくことが未だに横行している日本社会、これらを目の当たりにすると、少しも科学的認識においては進歩していないのではないか、とさえ思うことがあります。
こうなってくると、油性マジックによるマーカーが、単なるマイクロバブル入りシャワーで消えるという宣伝が流布されることによって、次々に、同様の現象を呼び起こしてしまうようです。
これを「柳の下のドジョウ現象」といいますが、その次の現象とは、マイクロバブル入りシャワーであれば、同様のことが起こると称して、大量の商品を売りさばいている流通ラインに、いくつも登場させてくるようになったことです。
もちろん、悪質なトリックを用いる必要性はないのです。
すでに、莫大な宣伝費が投入されてきていまうので、同じような宣伝費を使う必要もないのです。
こうなってくると、性能は同じ、安い方が商戦で勝つという、いわゆる「安売り競争」に突入していくのです。
いよいよ最終過程における混乱の商品現象が起きている、それが昨今ではないかと推察しています。
こうして、共倒れ、群(むれ)倒れが進行していくのかもしれませんね。
最も重要で深刻なことは、多額の金を払って購入したマイクロバブル入りシャワーが、じつは、何らの洗浄力もなく、だたお湯をかけることとほとんど変わらないことに気づかないことです。
すなわち、
「油性マーカーが落ちるのだから、自分の肌は、マイクロバブルやナノバブルですっかりきれいになるのだ」
と、その悪質なトリックによって騙されてしまったことに気づかずに使用し続けることなのです。
前記事において、肌に油性マジックで線を描いて消えるのは、せいぜい塗ってすぐの10数秒前後であり、そのまま乾かしてしまうと、それは、いくら擦っても決して消えることはありません。
もともと、ヒトの肌は、脂質ですので、そこに油性のマジックペンで線を描くと、最初に起こるのは、その油同士が反発し合って、あたかも油性マーカーを短時間の間浮かす作用が働いているのだと思います。
しかし、油性マーカーの色素は、非常に細かく、油成分も濃いことから、皮膚の皺のなかに徐々に入っていくのです。
こうして皺の凹面のなかに入っていくと、そこに油性マジックのマーカー成分が滞留しますので、これを擦する程度では消えなくなってしまうのです。
ここで重要な問題は、ヒトの皮膚には凹凸があるということです。
じつは、この油性マーカー成分が、この凹面に侵入していくのに10数秒かかるのです。
その凹面に侵入していく様子のモデルの比較を示しておきましょう。
図-1 油性マーカーを塗った直後と30秒経過後の比較
この図からも明らかなように、油性マーカーを塗った直後は、その表面張力が働いているために、すぐには、その皺のくぼみの中まで侵入できません。
しかし、そこは油性マーカーの泣き所でもあり、水面に油を落とすとぱっと油がすぐに広がるように、その表面張力を打ち破って、その窪みのなかに入っていくのです。
それが(b)の状態です。
こうなってしまいますと、いくら丁寧に拭いても、擦っても、その油性マーカーは消えることはありません。
それゆえに、たとえばテレビで、このトリックを演ずるときには、10秒以内mあるいは15秒以内に塗ってくださいと、そのタレントにお願いしておくのです。
この演技を行ったタレントさんは、いかにも、ぎこちない動作でしたが、それを行うこととで自分の評判が落ちるという危険性を考えていなかったのでしょうか?
油性マーカーに関する洗浄研究
この研究は、次のように進めました。
①ペットボトルに油性マジックペンで描いて、すぐに消すと消える。これが最初の実験でした。
②ペットボトルに油性マジックペンで描いて、約30秒経過して消そうとすると、少しも消えなかった。
これらによって、消える消えないは、塗った直後の時間に依存していることが判明した。
このトリックを利用して、もともと洗浄できないものを洗浄できたと思わせた。
③建築用のタイルに油性マジックペンで印を入れたが、これは、その直後においても消えなかった。
これは、そのタイルが凹凸だらけだっただったことと、油の膜ができていなかったことと関係して、すぐに内部へと油性マーカー成分が浸透したからであった。
こうして、この問題の本質が明らかになってきましたので、それからというものは、その油性マーカーを塗る対象物を片っ端に探しました。
一番先に見つけたのは、足下に敷かれている床用タイルでした。
これで消えてくれれば、儲けものと思ってやや期待を込めて塗り消しを試みましたが、予想の通り、少しも消えませんでした。
この床タイルにも、細かい凹凸ができていたからでした。
「もっと滑らかなものはないか?」
こう思って研究室内を物色していましたら、あるものを見つけました。
これで試してみると、なんとすぐに消えたではありませんか!
「ここで、なぜ?」
という気持ちが再び湧いてきました。
次回は、その「なぜ」に分け入ることにしましょう(つづく)。
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