「線状降水帯」の特徴

 西日本の各地で大きな災害をもたらした「線状降水帯」の特徴は、次の通りです。

 ①流れ方向に、線状に長く形成される。

 そのメカニズムには、組織された積乱雲群が関係している。

 ②その内側で、かつて経験したことがない大量の降雨があり、それが長時間維持される。

 なぜ大量の降雨がもたらされるのか、それが、長時間居座ると、河川が氾濫し、土砂崩れが至る所で起こることになります。

 ③この降水帯は空気の流れによって形成されますので、その流れとしては非常に遅いという性質を有しています。

 わずか3日間の降雨が、通常の8月の平均降雨量の3倍も降った、ということが盛んに報じられていました。

 なぜ、通常の前線と比較して、その移動速度が遅いのでしょうか?

 この①~③によって、日本のどこでも水害が発生していて、その防災は、この多降雨にほとんど対応できていないのです。

 この防災を担うのは国の仕事ですが、もっぱら利権にしか関心がない歴代政府は、口では国土強靭化といいながら、地道に国土防災を行っていくつもりはないようです。

 その証拠は、相次ぐ毎年の水害に対して、その対策予算を増やしていかねばならないのに、それができていません。

 戦後の高度成長の時期を過ぎたころから、しばらくの間、日本では、昨今のような多降雨があまりありませんでした。

 そのために、戦後すぐの巨大台風の襲来による河川氾濫災害対応から河川行政が後退し続け、今に至っています。

 相次ぐ昨今の河川水害、土砂災害によって失われる被害は、個々に数百億円規模になっています。

 基本的には、それと同等の予算規模で対策を講じていかないと、後追いだけになってしまいます。

 水害や土砂災害が起こりやすいところに家屋を建てる、施設を作ることが横行してきました。

 これは危険に危険を重ねる行為であり、その無茶な土地利用が、自然の報いを受けているわけで、人は自然の力には敵わないのです。

 国の基本は、安全を保障する防災からはじまります。

 この理念を忘れてはいけません。

   「線状降水帯」形成のメカニズム

 さて、線状降水帯の形成メカニズムを考察するために、再度、その定義を示しておきましょう。

 「線状降水帯は、次々と発生する発達した雨雲が列をなした、組織化した積乱雲群によって、数時間にわたってほぼ同じ場所を通過または停滞することで作り出される、線状に伸びる長さ50 - 300 km程度、幅20 - 50 km程度の強い降水をともなう雨域である」

 ここで、明らかにされているように、線状降水帯の実体は、列をなした雨雲、すなわち組織化された積乱雲群だとされています。

 この組織化には、2つの意味があります。

 それは、積乱雲を形成させるのが、1)渦であること、そして、2)その渦が流れ方向に列をなしていることを意味しています。

 積乱雲の特徴は、上昇流を形成させることにあります。

 地球正面の地面や海面が温められることで上昇気流が形成され、その表面付近の湿った空気の塊を上昇させることによって、あのもくもくとした積乱雲が形成されるのです。

 この上昇流と渦の構造は、どうような関係にあるのでしょうか?

 それをわかりやすく説明するために、より単純化したひとつの渦構造を考えることにしましょう。

 その渦は、古くから馬蹄形渦とかラムダ渦と呼ばれてきました。

 前者は、馬の蹄に似ていることからいわれるようになった名称です。また、後者は、日本人の濱良介先生によって名付けられ、文字通りλの形象に似ていた渦構造だったからでした。

 馬の蹄もラムダの文字も、二本の足を有し、その先端が繋がっています。

 これはU字型の文字を逆さまにしたものと同じです。

 これが、足元の方で、流れ方向に約15度の傾斜で形成され、それが上部になるとその角度が増加した約45度に増えます。
uzu-1
図-1 馬蹄形渦構造と積乱雲の関係

uzu-2
図-2 馬蹄形渦がいくつも流れ方向に形成された場合(側面視)
 
 図-1においては、前線に吹き込む大気の流れに形成に伴って、海面や地表面にそって形成される馬蹄型渦のモデルが示されています。

 この渦は、下部の二本足の部分と上部の逆U字型の部分で構成されています。

 図中の矢印曲線は、渦としての回転方向を表しています。

 これによって、この二本足の中央部では、地上や海面上からの湿った大気を上昇させ、それが筋状に長く、流れ方向に形成されています。

 この筋模様を形成させている、流れ方向には遅く、そして垂直方向には上昇成分を有した湿っぽい空気の筋が線状降水帯の正体ではないかと推察しています。

 地上付近において、流れ方向に細い筋状の上昇成分を有する空気の流体によって、その線状降水帯が形成され、長時間にわたって居座り続けるのです。

 この二本足と逆U字型のそれぞれの外では、その西側では、冷たい高気圧によって形成された下降流が、そして、その南側では、太平洋側の温かい高気圧によって同じく下降流が形成されることによって、この渦の旋回力をより強めさせ、その構造の維持にも寄与しています。

 そのため、この二本足上の傾いた渦は、その下降流が押し寄せてくるたびに、左右に揺れながら発達していくのです。

 この両高気圧からの下降流によって、この場提携型渦は発達してより大規模化し、その上昇成分を強め、それによって積乱雲が形成されます。

 そして、この積乱雲の下で多くの降雨が発生するのだと思います。

 また、図-2は、その馬蹄形渦が、流れ方向に重なって形成された場合の線状降水帯のモデルを示しています。

 このように、馬蹄形渦が集団として形成されることが普通であり、単独で形成されることは稀にしか起きません。

 このように、馬蹄形渦が、流れ方向に連続して形成されると、その線状降水帯は、より長く、より長時間の雨を降らせ、その結果として思いもよらぬ多降雨をもたらすのです。

 上記の発達した積乱雲が列をなすという現象の正体は、その馬蹄形渦が、流れ方向にいくつも並んで形成されるという自然の流体力学的現象を意味しているのだと思います。

 このようにして、線状降水帯の正体が明らかになったとすれば、次の問題は、それをどう制御すればよいかということになります。

 最も理想的には、簡単な方法で線状降水帯を破壊、あるいは弱化できることを開発することですが、それはなかなか容易なことではないように思われます。

 これは、その足元の二本の渦構造(縦渦構造)を制御するという高度な流体力学上の課題になります。

 じつは、1995年に、南カルフォルニア大学において、この縦渦制御の研究をしていました。

 この制御の目的は、縦渦の強化によって乱流化を防止し、抵抗を軽減させること、そして乱流構造を制御することに、その狙いがありました。

 この研究の成果が、線状降水帯の破壊や支配の技術と結びつくとよいなと思っていますが、その道のりは、なかなか険しそうですね。

 しばらく、よい方法がないか、沈思黙考してみましょう(この稿おわり)。