線状降水帯

 今年は、研究所の前庭において高砂百合がたくさん咲きました。

 気になって数えてみたら、約140本もありました。

 おそらく、昨年の数の2倍以上になるでしょう。

 この百合が咲くのは、毎年決まって敗戦記念日のころです。

 この開花は、盛夏から晩夏に向かう標といってもよいでしょう。

 気温が下がり、過ごしやすくなったと思っていたら、今度は、異常な長雨が続き、西日本の各地で大規模な水害が発生しています。

 「線状降水帯」という、かつては聞きなれない用語が、毎日の天気予報において頻繁に登場してくるようになりました。

 降雨前線よりも、より小さな隙間が連なって線状に形成される多降雨の帯、これが「線状降水帯」です。

 この特徴は、多降雨が長い時間においてゆっくりと移動していくことにあり、最近のテレビ報道では、「数日間で8月の降雨量の三倍が降ってきた」といいながら、「数十年に一度の降雨」ともいい、「かつてないほどの災害が起こる可能性がある」という指摘もなされています。

 これらを耳にして、「相変わらず、おかしなことをいっている。これでは混乱するばかりではないか」と思いました。

 具体的には、数(3)日間で、8月の月平均降雨量の三倍の雨が降ったことがあるのかという疑問が湧いてきます。

 私の記憶では、初めて聞く現象であり、それは「数十年に一度」のことではないのではないかと思いました。

 そして、この「数十年度に一度」という、あいまいな用語で降雨の多さを説明し始めたことにも問題があるように思いました。

 数十年とは、おそらく30~70年を意味するのだと思われますが、そのように幅のある解説で、それを聞いた国民のみなさんが、それをよく理解できるのかという問題が出てきます。

 それを耳にした方々によって、雨の降り方に関する印象、受け止め方が、それぞれ異なることは何をもたらすのでしょうか?

 これは、科学的事項に、あえてあいまいさを有する非科学的説明を行うことによって、誤解や混乱をもたらすことを率先して行っているようなもので、ここは、あくまでも科学的なデータを示すことによって、その降雨災害の度合いを多くの方々に認知していただくことが何よりも重要なことではないかと思います。

 また、この線状降水帯の形成による降雨の特性は、これまでのデータの蓄積と解析によって明らかになっていることから、そのデータベースによって、それがどの程度の降雨量と高時間になるかについては、ある程度の予測ができるようになっているはずです。

 この科学的な分析を踏まえて、各線状降水帯ごとに、その降雨量特性を即座に割り出し、正確な数値として発表し、被災の可能性があるみなさんに、即時の水害対応をしていただくことを可能のしていくことが重要です。

 それから、上記の三倍説についてですが、おそらく、それだけ多くの降雨があったのだから、かつてないほどの災害が起きても仕方がないという伏線を引いておくためのものでしょうが、それを何度も強調するのであれば、その根拠がきちんと示される必要があります。

 ①まず、その三倍降雨をもたらした現象が、過去にあるのかないのか、その発生確率年を明らかにすべきです。

 ②それが、かつてないことであれば、「数十年に一度」という説明は破綻することになります。

 ③これらの「あいまいさ」が出てくることには、これまでの河川治水行政の根本問題があります。

抜本的改善が必要な河川治水行政

 その第1は、中小河川の洪水対策としての河川改修が、いわゆる「30年確率」を基にして計画されていることにあります。

 この場合の30年確率とは、30年に1回降る降雨のことであり、それを基本にして洪水計画が作成されています。

 これを基にしていますので、それ以上の多降雨であれば、河川水は、すぐに氾濫危険水位を超えて、堤防から越流してしまいます。

 それゆえに、昨今の線状降水帯において以上に降った雨が、30年確率の雨よりも多くなることが頻繁に起きているのです。

 この事実を明らかにしたくないのでしょうか、それゆえに、「数十年に一度」というあいまいな表現で雨水確率を表現し、その問題の明察をさせないようにしているのではないかと思われます。

 すなわち、昨今の線状降水帯における降雨量の実測データに示されているように、これまえの雨水確率の概念が成り立たず、また、それに依拠した洪水対策が破綻しつつことの裏返しとして、上記のようなあいまいで解りにくい解説をしているのです。

 これが第2の問題です。

 そして、第3は、住民のみなさんの声です。今回も、このようなインタビューがありました。

 「ここに30年間住んでいますが、このような災害は初めてです」

 これは、30年確率では成立しない降雨現象が発生したことをリアルに示唆しています。

 第4は、一つの河川の改修に投入する予算がわずかであり、そのために、その回収期間が気が遠くなるような長さになっていることです。

 簡単にいえば、1河川の改修に投入できる金額は(国の補助金を得ても)約1億円でしかなく、そのために、その回収計画が終わるまでに約30年を要してしまうのです。

 そのために、河川改修ができていない中小河川が山ほどあり、そのなかで水害が起きた河川の河川改修を行うのですが、それが30年もかかってしまうのです。

 当然のことながら、異常降雨による水害は毎年のように発生していますので、その水害が起きた河川改修を後追いで行っているのが、まぎれもない現実なのです。

 この後追いを改め、先進的に河川改修を行っていくことで安全安心の国土づくりを行うことが急務になっています。

 次回は、線状降雨帯の形成メカニズムについて、私なりの考察を試みることにしましょう(つづく)。
 
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前庭の高砂百合の蕾