コロナのせいで1年延期された学会
約二年前に、第21回九州高気圧環境医学会の川嶌眞之会長からの特別講演の依頼がありました。
先生には、私の入院時にお世話になったこともあり、すぐに、その依頼を引き受けることにしました。
さて、その演題をどうしようかと考え、「光マイクロバブルが切り拓く医療・介護の新世界」という、少々大仰なものにしました。
ーーー その発表の頃には、コロナの下ではあるが、今行っていることがより進展するであろう。
こう予測しての題目決定でした。
その1年が、コロナのせいで、さらに1年延びて、この度の開催となりました。
当然のことながら、そのさらなる1年の延期が、私にとっては、非常に貴重なものとなり、その研究活動も、この講演を備えて成果を上乗せ、重ねていくことに向かっていきました。
いわば、この2年間は、その目標に向かって、「ここちよい緊張のなかで集中力の発揮」をめざすことになりました。
併せて、この新型コロナウイルスの感染拡大のなかでは、自分に「何ができるのか?」かも問われ続け、いわば「コロナ緊張の期間」でもありました。
講演の柱
この二重の緊張のなかで、この講演の内容を、次のように構成しようと思いました。
①医学関係のみなさんの前で話をするのは初めてのことでしたので、その関連の内容だけに絞って内容を組み立てました。
まずは、その理解の基本となる光マイクロバブルの物理化学的特性を簡単に、そして解りやすく示すことにしました。
それをベースにしながら、それらの特性が「生物的な活性」をもたらすことを、個々の事例を通じて紹介することで、興味を抱いていただこうと思いました。
②ただし、光マイクロバブルの物理化学的理解に関しては、結構難解な部分もありますので、そこは深く追究せずに、光マイクロバブルとは、どんなものかを、個別の映像をふんだんに示しながら、その印象を鮮明に刻んでいただくことに努めました。
③私が発表を行っていた学会は、工学系のものが多かったので、その際に、
「あなたは、いつ医者になったのか?」
という趣旨の質問を受けることがありました。
医学的な内容の発言に責任を持てるのか、という趣旨の発言ですが、このような発言自体が出てくるのは、医工連携が進んでいない証明ともいえます。
もちろん善意で、そう言ってくださっていたので、当然のことながら、
「私は、医者ではありません。工学者としての立場から発言しています」
と切り返すしかなかったのですが、その議論は、それで終結しなかったので、後味はよくないものでした。
これと同じ主旨の質問が、NEDOにおける補助金の第二次審査の際にもありました。
この折には、
「ご心配なく、私どもは、病院や介護施設と共同研究を行っていますので、そこで医学的な問題がある場合には、事前に医院内での審査委員会を開いていただき、その結果に従うことにしています」
といって、切り抜けることができました。
それゆえ、今回は、工学者が医者や病院関係の方々に向かって話をするという構図になっていましたので、その共同研究の成果として、その内容を紹介するという立場を示すことに徹しました。
④今回は、コロナ下で、かえって良い幸運な機会を与えてくださったのではないか、と前向きに捉え、以下の点を掘り下げることにしました。
1)光マイクロバブルの物理化学的特性と生物活性の関係をより整理して科学的に理解を深めることにしよう。
2)光マイクロバブルによる生物活性と細菌の不活化問題は、現象的には相反することとして理解されがちなので、それを矛盾しないように解説しよう。
3)今回の講演題目のなかに「新世界」というかなり大仰な用語を入れましたので、その講演のなかでは、「それが何か」をきちんと、そしていくつも明確に示すことに心掛けました。
この問題は、題目には掲げても、実際の講演においては、それを示さないということがよく起こりがちです。
数年前の東京での学会において、ある東大名誉教授の特別講演において、その題目に掲げた内容が実際の講演において少しも示されていなかったので、
「あなたの示した講演題目と実際の講演内容には小さくない乖離があります。肝心かなめのナノバブルの活性問題が、少しも話されていませんが、それはどういう訳ですか?」
と尋ねてみました。
当然のことながら、自分で話そうと思って題目に入れた重要な内容が、少しも紹介されていなかったので、その名誉教授の先生は、真に返答に困られたようでした。
その後、休憩時間になって、その彼は、私のところにすっ飛んできて、より詳しい質疑を行うことができました。
その折、さすがは東大名誉教授であり、とてもフランクな話ができ、それで質疑の矛先を収めることができました。
しかし、同じ東大でも、ある現役の教授の方には、このようなフランクさ、真摯さがありませんでした。
この方の特別講演の内容は、ナノバブルによるOHラジカル(ヒドロキシラジカル)によって野菜が成長するということを強調されていました。
しかし、彼は、そのメカニズムを提示することができずに、しかも、それは、ヨーロッパにおいて、同様の研究成果が上がっているからという理由で、その正当性を説明していました。
あまりにも、おかしな説明がなされていましたので、その講演終了後に、そのことを尋ねてみました。
「野菜の成長に関しては、窒素の取り込みが重要だと思われます。そのことは、OHラジカルのみで説明は難しいと思いますが、どうでしょうか?」
その時の返答は、まさにしどろもどろであり、回答にはなりえない、お粗末なものでした。
それゆえ、何回も同じ主旨の質問を行いましたが、彼が最後にいったことは、「弁当を食べる時間が無くなりますので・・・・」ということでした。
さすがに、この返答には唖然とし、「安心して弁当を食べていただく」ことにしました。
しかし、その弁当は、その余韻でおいしくなかったでしょうね。
そして、現役の東大教授でもいろいろな方がいるものだと思いました。
少々、横道に反れてしまいましたが、私が、この講演において、まず強調したかったのは、その「光マイクロバブルの新世界が、なぜ、今まで切り拓かれなかったのか?」についてでした。
そして、その理由を解明し、
「何が不足していたのか」、
「その問題点は、どこにあったのか」、
さらには、
「その切り拓かれた『新世界とは何なのか』」
などをわかりやすく、そしておもしろく解説するには、
「どうすればよいのか」、
これらにおいて知恵を絞り、工夫を凝らすことでした。
次回は、それらの内容に関して、より詳しく分け入ることにしましょう(つづく)。
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