約20年近くの年月を経て
「もう何年になりますかね?」
「約20年ですよ!」
「そんなになりますかね。
たしか、札幌の丘珠空港にまで迎えに来てくださり、そこから、あの広い北海道をなんと横断していきましたよね。
あれはすごかったですよ。あなたの愛車はすばらしかった。よく覚えていますよ。
とくに、釧路に入る前の平原は壮大でしたね」
「そうでしたか、いつもよく通っている道なので・・・」
「行けども行けども平原ばかり、北海道の途方もない広さを感じました」
「いや、よく私の住んでいる町まで来てくださいましたね」
「そうですよ、良く行きましたよ。
ようやくH町に着いてから、海を視察したときに、あの素晴らしい昆布の生息状況に吃驚しました」
「先生に、ぜひとも私どもの海の昆布をみていただきたいと思いました」
「そうですね。あれは見ごたえがありました。あの昆布は、一晩で大きく成長するのだそうですね」
「その通りですが、その昆布が今では大きく育たなくなりました」
「ええっ、どういうことですか?もう少し詳しく教えてください」
「昔は、昆布が20m以上もあって長かったのですが、それが今では、せいぜい5mぐらいしかないのです」
「そんなに小さくなっているのですか?」
「そうです。先日の新聞では、あと60年もすると、昆布は絶滅してしまうという研究者の記事が出ていました」
「それは、真に深刻な話ですね。あの時見せていただいた昆布は、相当に長かったですよ」
「そうだったですね。あの頃と比較しても、今は悲しくなるぐらい短くなっています」
「それはいけませんね。何とかしないと・・・・」
このような会話をして、彼の訪問目的であったメインの問題をそっちのけにして、昆布談議に耽(ふけ)ってしまいました。
なぜ、昆布の繁茂が減退してきたのか、これについてもしばらく議論が続きました。
さらには、どうしたら、今の状況をブレイクスルー(打破)して、昔のような昆布の林を再生できるのか、これについても重要な論議を深めました。
この業者の方は、その昆布を主食にしている海底生物をビジネスになさっていて、そのエサが無くなることは、彼のビジネスも立ちいかなくなることを示唆していました。
互いに、約20年を経て再開した彼は、その昔に戻った気分になって、その時の経過を忘れてしまったかのように語りかけてきました。
北の大地から、飛行機を乗り継いでわざわざ来られる方なので、相当な意志力と行動力がおありなのだと思います。
思えば、最初の出会いは、いきなり電話をもらい、明日、私どものところに行ってもよいかというお尋ねであり、こちらも少々面食らいました。
というのも、その日は我が家の庭で花見の宴を催すことになっていたからでした。
「一緒に花見をしていただけるのでしたら、話ができますが、どうですか?」
もちろん、彼も二つ返事で快諾、なんと、その北の大地から、わざわざ、彼の生きた商品を持参してくださいました。
かつての我が家は官舎でしたが、そこには直径30㎝もある桜の木が5本もあり、4月初旬になると、それが満開になって花見を催す、これが恒例になっていました。
この日は、庭に敷物を引き、そしてコタツを出して、肌寒い中で夜桜を見ながら酒宴を楽しみました。
研究室からは、強力なスライドプロジェクター2つを拝借して、夜桜を照らした美しい光景は今も頭のなかに刻まれています。
その夜桜の下、かれとコタツを囲んで話をしました。
なにせ北海道から来たのですから、私たちが桜の下で肌寒いと感じていても、彼にとっては「なんと温かいことか」といわれていたことが印象的でした。
それが契機となり、彼との光マイクロバブル談義が繰り返されていくことになるのですが、これが続いたのは、この桜の下の出会いがよかったからかもしれませんね。
彼の手土産の海底生物の味は、この世にこんな旨いものがあったのかと思えたほどで、もちろん、その夜の花見に参加された方々や子供たちも大喜びしていました。
その時の、やや緊張しながらも、心から語り合った彼の顔を今でも鮮やかに思い出します。
二回目は、前述のように、学会の帰りに、その北の果てに、私どもが出かけて行きました。
たしか、教え子のM君も一緒だったと思います。
その彼にとっても、この北の大地への旅行は、胸を震わすほどの印象的な旅行になったようでした。
このとき、昆布の海とともに、その海底生物の加工の様子も視察しました。
すでに、光マイクロバブル発生装置の導入がなされていましたので、その使用効果を確認しました。
その時、非常に吃驚し、「さすが、光マイクロバブル」と思ったことがありました。
それは、その海底生物の身に付着した細かい汚れが、みごとに光マイクロバブルに付着して浮上してきた様子を目の当たりにしたことでした。
その剥き身は、光マイクロバブル洗浄が進むと水槽の下に沈み、これまた見事な分離ができていました。
これは江田島湾で見た、カキの剥き身の洗浄の時の「浮上と沈下」の様子によく似ていました。
「この光マイクロバブルの作用は、すばらしいですね」
こういうと彼も、小さい目をさらに小さく細めて喜んでおられました。
北の海が危機を迎えている
今回の彼の来社の目的は、上述のように、北の大地の海でさえも、その危機的様相を帯び始めたなかで、なんとか、それを打開する方法はないか、とういう相談にありました。
もちろん、その状況を耳にし、彼の要望に、どう応えるかを、その議論を通じて模索することにしました。
じつは、彼は、お土産を渡そうと、22日の昼前に一度来社されました。
その折、一緒に昼ご飯をいただきながら、久しぶりの再会を祝うとともに、今の北海道や彼の業界のことを詳しく聞きました。
それによって、かれの想いもよく理解できましたので、その翌日(本日)の本番においては、その彼の想いを実現するために知恵を絞ることにしました。
これには、これまで四半世紀余にわたって、全国の浜に入り、その方々の要望を聞きながら、光マイクロバブル装置の導入における現地対応型の装置開発を行ってきたことが役立ちました。
昨夜、改めて彼の提案に基づいて、それをどうブレイクスルー(打開)していくかを考究し、その調査も行いました。
そして約10数枚のパワーポイントスライドを作成しました。
本日は、朝の10時から、その内容については、次回にやや詳しく分け入ることにしましょう。
(つづく)
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