拝復

毎回、楽しいご返事をいただき、ありがとうございます。筆まめの友人に出会い、ユニークな内容をおもしろく拝読しております。

 今日は歯の話から、あなたは、その歳で今なおすべて健在だそうで、うらやましいかぎりです。

  私は、幼いころから虫歯だらけでした。飴をしゃぶり、羊羹を1本丸ごと食べるような習慣が身についてしまい、バイキンマンの活躍の場を自ら提供していました。

 そのため、中学校からは頻繁に歯医者に通うようになり、真に嫌な時間を過ごすことになりました。

 しかし、時折、その歯医者に初恋の人がやって来るようになり、その時だけはドキドキしながら胸躍らせてしまい、受付を遅らすこともありました。

 結局、その彼女には、一度も声をかけることができず、真に淡いままで終わりました。

 先日の50年ぶりの同窓会では、私と目を合わせたことがありましたが、その時も無言で彼女の前を通り過ぎてしまいました。

 あなたの初恋の場合とは、ずいぶんと異なっていますね。

 私の一生のほとんどにおいて、そのバイキンマンと共生したために、私の歯はボロボロになり、つい最近まで苦労をしてきました。

 行きつけの歯科医院が閉店になり、替わりに近くで新設された歯科に行くと、いきなり、若い女性歯科医から、全部抜いて入れ歯にしたらどうかといわれ、相当なショックを受けました。

 「こいつ、何も解っていないな!」と思いながら、応急措置だけの治療をしていただいて終わり、次に、定期的に通っていた市民病院の担当医に相談したところ、そこにも歯科があるそうで、早速、そこに行くと、ここでも「歯を全部抜いて入れ歯にせよ」という宣告を受けました。

 この歯医者からは、「よく考えてから、決めてきてください」といわれ、私も観念するしかないと思い始めたころに、共同研究先の施設のマネージャーさんから「排泄セミナー」への参加を勧められました。

 その特別講演者に、地元中津市の歯医者さんが登場するとのことで、ますます興味を持ち始めました。

 「入れ歯にするかどうかは、この歯医者さんの話を聞いてから決めよう!」

 そう思ってX先生の話を興味深く拝聴しました。

 その時の先生の話は、口腔ケアの問題が、ヒトの臓器と排泄問題に深く関係していること、そして、高齢者になると水分をしっかりとる必要があることなどが強調されていました。

――― これはよい話を聞いた。この先生なら、よさそうだ!

 早速、その講演の後に、このX先生を紹介していただきました。そこで、ずばり、次の2つの申し知れを行いました。

 ①先生の話を聞いて、非常に感激しました。つきましては共同研究を行うことは可能でしょうか?

 ②もし共同研究が可能であれば、そのついでに私の歯も治療していただきたいのですが、それも可能でしょうか。

 もちろん、かれは、この2つを即座に快諾され、それを踏まえて光マイクロバブルのことを少し紹介しました。

 すると、どうでしょう。かれはますます目を輝かせて興味深く、たちどころに質問や意見が飛んできました。

 どうやら、このような光マイクロバブルの科学の話がお好きなようで、「これはよい人だ」と思いました。

 そこで、共同研究の準備が開始されるとともに、私の治療がなされるようになり、そこで思わぬ治療方針が披露されました。

 それは、今の残存している歯を活かして補強していくことが可能であり、入れ歯は不要だということでした。

 これは私にとって、非常にありがたいことであり、先生への信頼度が急上昇しました。

 そのことを家内に告げると、今度は自分も、その歯医者に行きたいといい始め、それがさらに波及して私の相棒夫婦も通うことになりました。

 こうして歯の治療とともに共同研究が進むという、初めてのケースが実現しました。

 やはり一流は違う、治療を受けながら、先生の知識と神業に近いような技量に感服しました。

 このような事情から、私の人生において久しぶりに歯のことを心配しないで済むことが可能になりました。

長々と歯のことを書いてしまいましたが、これらの治療と先生との触れ合いは、その後の共同研究に非常に役立ったことはいうまでもありません。

あなたの歯はすべて健全というのですから、それは私にとっては、あなたが走ることに優れていること以上に驚異的なことです。親からもらった歯を大切にされてください。

 それから、あなたが長年続けられている徒歩での「川紀行」もすばらしいと思いました。

ご存知のように、高専時代においては長い間、川の流れに関する研究をしていたこともあって、息子と一緒に、その川紀行を行ったこともありました。

しかし、上流の山地河川については、それを実践したことがありませんでした。

そんな思いを抱きながら、高専の最後の方で、山地河川の急流部においては光マイクロバブルが生成されているのではないかと推察し、その作用効果を調べてみる価値はあると思って、それを文部科学省の科学研究費補助金に申請したところ、それがみごとに合格して、その研究を始めたことがありました。

そこでは、滝で形成される光マイクロバブルのことや、鮭が再度川を遡上して卵を産む習性の原因を探ることまで入っていましたが、結局、光マイクロバブル技術を他の世界で駆使することの方が忙しく、その研究を持続的に進展させることができなくなりました。

その時の仮説として、

「川は、自ら生物活性機能を有し、それに光マイクロバブルが深く関係している。それが川の流れの形態にも重要な役割をはたしているのではないか?」

と思ったのですが、これを、あなたはどう思われますか?

10㎞は無理としても、あなたの川紀行に1㎞ぐらいを付き合って、この仮説にやや分け入ってみたいと思っていますが、それは果たして実現するであろうかと思いをめぐらしています。

最後に、あなたが小まめに病院通いをして健康に気を付けていることを知り、これはとてもよいことだと思いました。こうして他人に対しては、このように立派なことがいえるのですが、私には、その小まめさがなく、とかく病院通いを避ける側に長けているようです。共同研究において病院通いをすることは少しも厭わないのに、病人としていくことはいやだと感じてしまうのですから、これは天邪鬼の証明かもしれません。

それから、KM君のメイルアドレスをよかったら教えてくれませんか。以前にかれとメイルでやり取りをしていたのですが、パソコンの更新とともに、それが解らなくなってしまいました。

かれは、よく頑張っていて、先日もコロナに関しての立派な論文を書いていました。その内容に関して、かれと議論をすることができると幸いに思います。

だいぶ長文になりましたが、あなたの川紀行の成就を念願いたします。みなさまによろしくご伝言ください。

敬白


田染三宮の景
田染三宮の川(豊後高田市)