ワインショップ通い
 
 ゲッチンゲン市の旧市役所広場の傍にワイン専門店がありました。

 ドイツ中のワインが集められ、地下倉庫に貯蔵されていました。

 その貯蔵ワインのリストが発行され、それを見てワインを選ぶ作業が続きました。

 なにせ、こちらには、研究所のBさんという超ワインに詳しい見方がいましたので、かれと研究所のお茶タイムでワイン談義を弾ませました。

 「今度は、どれにしましょうか?白だけでなく赤ワインもいいですね!」

 このようにして私のワイン選びはエスカレートしていきました。

 エスカレートという意味は、格上のワインを選んでいったことでした。

 さて、このように一見すると、大変贅沢なワイン選びをしているのではないかと思われがちですが、じつは、そうではありません。

 それは、日本では高級ワインに祀り上げられているものが、非常に低価格で購入できていたのです。

 その意味で、庶民感覚でワインを楽しむことができ、それがビールよりもワインを多く飲む方が多いのです。

 ドイツに着いて最初に買ったのが、キオスクでのラインヘッセンのワインでした。その価格が確か4マルク(320円)でした。

 同じものが、当時の日本においては1000円以上していたように思います。

 また、ビールは、当時の日本の缶入りが210円だったものが、よりおいしい味で65円程度でしたので、私たちは、相当に高いビールを飲まされていたことになります。

 それゆえ、私がワイン専門店にいって選ぶワインは、せいぜい10マルク(800円)程度でした。

 これを数日間にわたって飲むのですから、一日あたりは200円前後になっていました。

 それでは、ドイツにおける高級ワインとはどんなものなのでしょうか?

 それは、「アウスレーゼ」と呼ばれていて、年代をかけて貯蔵したもので、そのほとんどが甘い味のワインでした。

 実際、甘ったるくて飲めない、これが私の正直な印象であり、私が好んだのは、「トロッケン」あるいは「ハーフトロッケン」というワインでした。

 トロッケンとは辛口の味のことですが、その実際の味は、甘くないワインといった方がわかりやすいでしょう。

 価格的にも、トロッケンワインは10マルク前後であり、高くても15マルク程度であり、それに対してアウスレーゼワインは20マルク以上の価格でした。

 ドイツワインの三大名産地
 
 ドイツワインに精通してくると、その生産地の銘柄を気にするようになりました。

 ドイツの白ワインを作るブドウは「リースリング」という種がメインです。

 このブドウが、フランスとの国境沿いで育てられていて、そこが白ワインの名産地になっています。

 モーゼル、ファルツ、ラインヘッセンが、そのリースリングワインの三大名産地といわれています。

 なかでも、モーゼルワインは、私が好んで飲んだワインです。

 モーゼルとは、川の名前であり、この流域を中心にワイン畑と醸造所が広がっています。

 このなかのファルツワインにおいては、今尚、強い印象が残っています。

 ある時、そのワイン専門店で注文したファルツワインのコルク栓が緑茶色の黴のようなもので覆われていました。

 このように黴で覆われていたワインは、未だに、このワインだけでした。

 おそらく、貯蔵の過程で黴が発生したのだと思います。

 その黴の生え具合を気にしながら、それをいただくと、独特の香りがして、その味に感激しました。

 後で、同じ銘柄のワインを注文して確かめましたが、それには黴の付着がありませんでした。

 それゆえ、何ともいえない香りもなく、真にふしぎな一度かぎりのふしぎなワインとの出会いでした。

 これに対し、フランス側から見ると、ドイツとの国境に近いところでのフランスワインの名産地にブルゴーニュがあり、ここも有名で、私が好きなフランス白ワインのひとつです。

 さて、ドイツでの留学期間が残り少なくなってきて、私のワイン選びはモーゼルに集中するようになりました。

 こうなったら、とことんモーゼルを楽しもうと思ってワイン専門店に通い、より格上のワインを選んでは購入しました。

 その度に、ワイン屋のご主人喜んで笑顔を見せてくれました。

 これで最後の購入という日のモーゼルワインのことはよく覚えています。

 その銘柄は忘れてしまいましたが、瓶の色は青で、そこの貼られたラベルが下方にあったことを覚えています。

 もちろん、この味は格別であり、感激しながらいただきました。

 ところで、この値段はいくらだったか、それが気になりますね。

 その値段は、格別に安かったので今でもきちんと記憶に残っています。

 そのワイン屋における最高水準に近いモーゼルトロッケンワインの値段は1500円程度でしたので、約19マルクでしかありませんでした。

 学生たちが飲むワインが3マルク程度、一般家庭でよく飲まれるのが5マルク前後ですので、このワインは、その4倍になりますので、確かに高価なワインということができます。

 それを買ってワイン屋のご主人が喜んだのも無理はありませんね。 

 このように、ドイツでは、上質のワインを安く買うことができますので、それが生活の中に定住できているのだと思います。

 それに引き換え、日本ではすべてのものが高く、そのドイツ留学における最後のワインは、おそらく4000~5000円もするワインとして店に出されているのではないでしょうか。

 このドイツでのDLR留学の後は、そのままアメリカのロス・アンジェルスにある南カリフォルニア大学に向かいました。

 ここでは、当然のことながらドイツワインはありませんでしたので、私が愛飲した飲み物は日本製のビールでした。

 その日本製のビール(210円のもの)を、ロスのトーランスにあるヤオハンのスーパーでは65円で買うことができました。

 私たちは、3倍も高いビールを買わされていたことに驚き、心の底から怒りを覚えました。

 こうして、ドイツ留学を契機として、私は、すっかりドイツワインのファンになることができました。

 (つづく)

DSC_0099 (3)
ミモザアカシアの花の蕾