今回の球磨川における市房ダムにおける緊急放流は行われませんでした。

 それは、そのダム貯水池への流入が、9~10時ごろにおいて減少したからでした。

 このダム貯水池の午前9時の水位は280.05mでした。満水位の
280.7mまでには約65㎝の余裕がありました。

 ここで降雨量が減少し、それがダム貯水池への流入が弱まったことで、急遽、緊急放流が延期され、さらに休止に至りました。

 降雨の減少、それに伴う貯水池への流入量の減少、これらが、緊急放流を停止させることに結びつきました。

 これによって、M客員教授の発言は、幸運にも大きな問題になることはありませんでした。

 しかし、このような発言は、なにもMさんに限られたことではなく、その後、氾濫が起こった筑後川における下筌(しもうけ)ダムにおける緊急放流の際にも、テレビに搭乗していた気象庁関係の関係者によって呑気な安全論が述べられていました。

 なぜ、このような呑気な安全論が危険なのか、その理由をきちんと指摘しておきましょう。

 その最大の理由は、現に、その「緊急放流」によって小さくない被害が実際に発生していることにあります。

 その典型は、2018年の7月に起きた野村ダムと鹿野川ダムにおいて行われた緊急放流であり、これによって下流の2か所において多大な氾濫が起きて多数の死者が発生しました。

 この時の緊急放流には、さまざまに小さくない問題がありましたが、最大の問題は、「満水後において、ダム貯水池への
流入量は1.2~1.3倍にしか増えていないのに、放流量は、2~3倍に急増させていた」ことでした。

 詳しくは、本ブログの『西日本豪雨災害について(1)~(7)、2018年7月』をご覧ください。

 
つまり、ダム貯水池に大量の流入があり、それが急激に増加している場合には、ダムに流入してきた量だけをダムから放流させることは非常に難しいことなので、その規則から踏み外すことはありうることなのです。

 ですから、上記の解説者の呑気な発言は、決して許されるものではなく、むしろ警戒を怠らず、注意を喚起することが必要なことだったのです。

 この点でNHKは、この視点に立脚していて、
下筌(しもうけ)ダムにおいて緊急放流がなされた際には、十分に注意することを何度も繰り返していました。

 ここでダム貯水池水の放流問題については、2019年夏の水害の後で、現官房長官がテレビに出演し、次の発言を行っていました。

 「洪水による甚大な被害を防ぐために、洪水の前にダム貯水池を空っぽにして、十分な洪水カット効果を果たすようにする。その際、その洪水カットが不発に終わったときには、その経済的補償を国が行うので問題はない」

 これは優れた英断であり、それが国土交通省において具体化されるものと思っていましたが、未だに、その治水変更がなされていないことから、その構想は途中で消えて無くなったのでしょう。

 日本全国の多数のダムの建設は、日本列島に今のような激甚降雨がなかった時代であり、この数年間の酷い災害をもたらした豪雨に対しては、その力を十分に発揮できなくなっていると思います。

 今回の決壊と氾濫による大規模な水害が発生した河川は、国が管理している一級河川であり、九州を代表する河川が筑後川であり、球磨川なのです。

 これらの一級河川が毎年のように氾濫し、激甚災害を毎年のように発生させていることは、戦後の河川治水の在り方を根本的に見直し、新たな治水政策を打ち立てる必要があることを示しています。

 この抜本的見直しがなされ、ここに十分な財政投資がなされないと、毎年のように、このような悲劇が繰り返されることになるでしょう(つづ
く)。

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若葉