今回の球磨川水害が発生した熊本県や岐阜県で被災されたみなさまに、お悔やみとお見舞いを心から申し上げます。

 新型コロナウイルスショックのなかで復興も思ったようにままならないようですが、どうか気を落とさずに復興に勤しんでいただくことを念願いたします。

 さて、今回の球磨川水害の発生を契機にしてに、さまざまな非難が放たれるようになりました。

 その中心は、椛島熊本県知事が川辺川ダムの建設を中止したせいだ、あのダムが建設されていたら、今度のような水害は発生しなかったのではないか、というものでした。

 近年、予想をはるかに超えた豪雨によって多くの河川が氾濫し、大規模な水害が毎年のように発生しています。

 その度に、河川工学者がメディアに登場してきて、次のように警告を発するのが決まり文句になっています。

 「これまで降ったことがないような雨が降っています。このような大雨が降れば、全国ののどこの川でも氾濫が起こり、大規模な水害が発生します」

 まったく、その通りですが、ここで彼らは、みごとに重要なことを、いい忘れているのではないでしょうか。

 それは、ダム建設の目的は、河川の水害を起こさせない、すなわち治水のためであったはずで、そのことにふしぎなほどに言及しないのです。

 ここ数年間の記憶に新しい大規模水害に限っても、ダムの洪水カットによって。下流の氾濫を防いだという事例はほとんどありません。

 むしろ、それとは反対に、洪水氾濫水位に達した後にダム放流量を増やして、氾濫を増やした、あるいは、短時間の急激な緊急放流によって、異常な放流量の増加で氾濫が加速され、人命を亡くすという事例まで生まれています。

 つまり、治水の役割を果たすべきダムのほとんどが、その能力以上の大雨によって、本来の機能を果たせなくなっているのです。

 これは、戦後の河川における治水方式の全面的な見直しの必要性を示唆していたのです。

 その観点から、菅官房長官がわざわざテレビに出て、洪水の前に全国のダムを空にして治水効果を高めるという、これまでのダム政策における、まさにコペルニクス的転換の方針を国民の前に明らかにしていたのです。

 戦後の河川行政における治水理念の中心は、堤防をコンクリートで高くして、一滴の水も漏らさない、ということにありました。

 高い堤防があるのだから、堤防の近くに住宅を構えてもよいという土地政策になりました。

 それでも、各地で破堤が起こり、河川水がどっと流出して大被害が生まれ続けてきましたので、今度は、さらに強靭な「スーパー堤防」なるものを造って強靭化策を向上させようとしてきました。

 しかし、これも、堤防を高くして一滴の水も漏らさないという、これまでの河川治水の方法の域を出ることができませんでした。

 すでに、誰の目にも明らかなように、これまでの河川治水の在り方を全面的に考え直し、新たな河川治水の方法を示して、全国のみなさんに安全であることと安心であることを示すことが求められているのです。

 その観点から、今回の球磨川水害についても、深い考察がなされることが求められているのだと思います。

 球磨川は、たしかに、完璧な治水を行うことは難しい河川です。

 それらは、1)蛇行が多い、2)狭窄部が多く、中洲もある、3)上流にあるいくつかのダムの治水効果が小さい、4)流域面積が大きく、そこで集められた雨水が川に一挙に流れ込み、水位を急激に上昇させている、5)河川勾配が変化し、それに伴って河川水位変動が起こる、6)脱ダム宣言の下で河川改修を行っているが、費用と時間が莫大なものとなっている、7)今回のように線状豪雨帯によって短期間に集中的に豪雨が降ることに対しての有効な対策が施されていないなどの問題があります。

 こういうときは、河川の治水理念という大元から考え直す必要があります。

 その基本を示しましょう。

 ①堤防を高くして、河川水を一滴も外に漏らさないという考え方を止めて、堤防はいたずらに高くせず、その堤防からゆっくりと氾濫させてもよいところで氾濫させる、すなわち低水工法の理念に立ち返る。

 ②氾濫や破堤は、河川の流れが速くなって、それが河川堤防に衝突するところでよく起こりがちです。

 球磨川は、たくさんの蛇行を繰り返していますので、かならず、この弱い箇所がいくつも存在します。

 ここでは、河川内部の構造を変更し、河川中央部に流れの速い部分を形成させ、その流下能力を向上させ、その周辺は遅くして、氾濫水位を超える場合も、ゆっくりと緩やかに越流させる方式が最も良い方法なのです。

 この理念を見出し、それが可能であることを実験的に示したのが、木下良作博士でした。

 より具体的には、「e水路」と呼ばれていた河川流制御方式であり、あまりにもみごとな結果に感激したことを思い出します。

 これは、河川複断面の低い部分である低水路と高い部分の高水路(通称「河川敷」)の蛇行位相差を巧みにずらして、速い部分を中央へ中央へと向かわせる制御法なのです。

 この方法ですと河川内部の、すなわち低水路の改修でよいのですから、そんなに費用はかからず、すぐに、国土交通省や県の判断できることなのです。

 先ほど、球磨川の地図を拝見しましたが、この河川改修を蛇行部と狭窄部において実施することができるのではないかと思いました。

 ③この低水路改修とともに、その地域にあった今風の遊水地の設置が必要と思われます。


 これがあると、ゆっくりと、そして緩やかに氾濫させ、下流の氾濫や高水位を防ぐことができます。

 また、この氾濫を利用して肥沃な農地に改善するという方式も考えられます。

 さらに、仮に氾濫で被害が生じれば、きちんとした補償を行うことも大切です。

 下流の被害を救うのですから、正当な補償ができるように配慮すべきです。

 これらを地域住民のみなさんと、具体的には、川づくり委員会において大いに検討をしていくことも非常に重要です。

 なによりも、住民のみなさんが納得して、ともに安全安心の川づくりを行っていくことが求められているのだと思います。

 これまでの河川治水の歴史を踏まえれば、みんなで知恵を出し合い、粘り強く、その知恵を実際に生かしてきました。

 この観点から、上記の①~③の新たな治水工法について、関係の知事や自治体のみなさん、住民のみなさんで、ご一読をしていただけますと幸いです(この稿おわり)。 

mori0717
国東半島の森