ロハスとは、「Lifestyles Of Health And Sustainability」の略称のことです。

 その思考の基礎として、福岡伸一さんが重要視したのが「動的平衡」の概念です。

 もともと、この概念の最初の提案者は、ルドルフ・シェーンハイマーいうユダヤ人科学者でした。

 この原理の基本として、かれは次の「ルシャトリエの法則」の説明を行っています。

 この法則は、「一般に可逆反応が平衡状態にあるとき、その条件(濃度・温度・圧力など)を変化させると、条件変化の影響をやわらげる向きに反応が進んで、平衡が移動する」というものです。

 この法則に基づいて具体的な反応例をあげると、ダム貯水池の深いところでは、圧力が大きくなり、そこに空気を送り込むと、その酸素成分が溶解しやすくなり、その噴出水域付近の溶存酸素濃度が高くなります。

 この溶存酸素の高濃度化において、空気供給前の溶存酸素濃度における平衡が移動します。

 これは、水中の酸素の移動に関する動的平衡現象ということができますが、ルドルフ・シェーンハイマーは、この概念を、生物のアミノ酸摂取に関する実験を行なうことで見出します。

 かれは、アミノ酸にアイソトープという信号を付けてマウスに食べさせました。

 すると、このアミノ酸はマウスの各臓器に摂取され、そこにあった古きアミノ酸と置き換わったことを発見します。

 この間体重の変化はなく、新たなアミノ酸が古きアミノ酸と置き換わって新たな身体を形成させて平衡状態を作り出していることで、これを生物の「動的平衡」という命名されました。

 福岡さんは、これを「20世紀最大の発見」であったと評価されていましたが、それは、別の発見(核酸と二重らせん構造)によって打ち消されてしまいました。

 これは、「私たちの生命を構成している分子は、プラモデルのような静的なパーツではなく、例外なく絶え間ない分解と再構成のダイナミズムの中にある」ことでした。

    よりわかりやすくいえば、私たちが食物を食べるのは、「絶え間ない分解」を行うことによって、身体を常に再構成していることを意味しています。

 このダイナミズムを怠って、酸化物ばかりを摂取していると身体が酸化され、それが老化に向かって再構成され、進行していきます。

 かれは、これを川の流れに例えています。

 「生命は行く川のごとく流れの中にあり、私たちが食べ続けなければならない理由は、この流れを止めないためなのだ。この分子の流れは、流れながらも全体として秩序を維持するため相互に関係性を保っている」

 分子の挙動を川の流れに例える、これはじつにユニークな表現方法です。

 たしかに、川の流れを止めることができないように、私たちは食べることを止めることはできません。

 そして、その流れにおいては、相互に関係性を持っている、たとえば、これは水の流れと川底の砂の動きとの間において、相互の関係性を有しています。

 流れが速ければ、砂を大量に下流に運んでいきます。

 また、その運び方にも秩序があり、小さい砂ほど遠くに運びますので、川岸に近いほど細かい砂が堆積し、川の中央に進むほどより大きな砂や礫が存在しています。

 これも水の流れと砂の流れの相互関係性において、その運搬される量や模様が異なるという秩序が形成されます。

 「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず、よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまりたるためしなし」

 鴨長明の『方丈記』における有名な書き出しの一節です。

 河の流れは、絶えず上流から運ばれる大量の水で形成されています。

 長明は、この河の流れをじっと観察し、そこには新しい水が流れてきて、よどみ、すなわち流れが遅いところでは、流れの速いところとの速度差によって渦が形成され、その中心部付近に「うたかた(泡)」が発生します。

 そして、そのうたかたが消え、ある時は泡同士が結び合う(合体する)挙動を示します。

 真に、優れた観察力といえ、長明は、人の世や人生も、この「うたかたのようだ」と想像したのでしょう。

 この河の流れを分子の流れに例えて、生命の「動的平衡」を説明しようとしている福岡伸一さんは、真に鴨野長明流の観察力と洞察力をお持ちなのでしょう。

 さて、かれは、この動的平衡に宿されている秩序をむやみやたらに「乱していけない」と主張されています。

 ここでいう「乱す」とは、どういうことなのか?

 私は、かつて「乱流」というものを若い頃に研究していましたので、私流の乱流感を添えることにしましょう。

 河の流れには、常に速いところと遅いところがあります。

 その速いところと遅いところの境界では、速度差が生まれます。

 この速度差があると、早い流体と遅い流体の「こすり合い(せん断)」が発生します。

 このこすり合いから回転成分が生まれ、これが渦になります。

 渦の部分は、周囲よりも遅いところともいえますので、ここに「うたかた(泡沫)」が集まりやすくなります。

 おそらく、長明も、この「うたかた」とともに渦が形成されていたことを観察していたでしょう。

 じつは、この渦こそ秩序を持った流れの構造の一形態なのです。

 そして、この渦構造を形成させるのが「乱れ」なのです。

 ですから、乱れが渦構造を発生させ、その渦巻きの動的挙動こそが「秩序」なのです。

 そして、大きな渦がより小さな渦へと自らのエネルギーを受け渡していきますので、この渦は形や大きさだけでなくエネルギーも運搬していきます。

 この過程は、真に「動的平衡」そのものといってよいでしょう。

 ですから、注意すべきことは、この大きな乱れによって形成されている秩序を破壊し、その流れを止めてしまう、あるいは大きく阻害する場合があり、そのことを説明されようとしたのではないかと思われます。 

 もうひとつおもしろいと思ったことは、長明が、その「うたかた」が消え、結ぶという自己運動、生成・消滅という変化の挙動をみごとに見出していることです。

 そして、福岡伸一さんが、この自己運動過程が生命体のなかにおいても発生しているという鋭い洞察をなさっていることです。

 さて、この「うたかた」と親戚関係にあるのがバブルです。

 そのなかで、私が見出し、研究してきたバブルが「光マイクロバブル」です。

 この光マイクロバブルには「動的平衡論」が適合・成立するかどうか。

 鴨長明の「うたかた」、福岡伸一さんの「生命の動的平衡」を参考にしながら、次回において「光マイクロバブルの動的平衡」に分け入ることにしましょう

 この考察ができることを、このご両名に感謝しなければなりませんね(つづく)。

開水路乱流1
開水路乱流の横断面可視化
(下に床面、上に水面が見える。流れは奥から手前に向
かっている白い模様は乱流の秩序構造を示している)