しばらくの間、中断していました。

 これまでの高専の長所を最高度に活かした「高専大学」を創設する、これが、このシリーズで検討してきたことにおける「第1の結論的到達点」です。

 その教育の中心になるのが「技術開発とは何か」を実践的に教えていくことが決め手になる、これが「第2の結論的到達点」だと思っています。

 これは、私の高専教員時代から温めて研究してきたテーマであり、そこを退職して7年が経過した今では、ますます、その重要性を認識するようになりました。

 この第1の到達点は、すでに全国の高専に専攻科が設置され、そこの卒業生は、大学生と同じ学士として卒業していることが教育認定されていますので、これが高専大学の橋頭堡ということができます。

 その第2は、この専攻科における学生数が、その定員を大きく上回っていることであり、それが高専本科卒業生と保護者の要望に合致していることにあります。

 第3の到達点は、高専専攻科における創造性豊かな実践的教育の成果が、少なくない企業や大学、そして地域から評価され、その持続的発展が切に求められていることにあります。

 一方で、世界が激変し始め、その影響を最も受けている国のひとつが日本だといわれています。

 経済的不況のサイクルのなかで、今回の新型コロナウイルス感染による経済の停止は、ますますの衰退を促進させることになるでしょう。 

 高専は、この経済動向に敏感に反応し、その影響を大きく受ける教育機関として知られています。

 もともと、産業界の強い要請によって設立されたのが高専ですから、
その創立以来、産業界と共に歩んできたのが高専といってもよいでしょう。

 しかし、ここにきて肝心要の産業界、とりわけ製造業において小さくない問題が生まれてきています。

 すでに明らかなように、わが国の電機産業は東アジアの諸国に追い越され競争力を失っています。

 かろうじて体力を維持しているところも、部品の供給によって支えられています。

 このような産業の趨勢を背景に、経団連の幹部で製造業主でもあるをトップ層から「日本の製造業は、このままだと滅びてしまう」とさえいわれるようになりました。

 また気鋭の経済学者からは、「産業がボロボロになった。外貨を稼ぐ産業が生まれてこない」と指摘され続けています。

 たしかに、これらの経団連の幹部や経済学者のいわれるとおりであり、この閉塞状況を打開する話はほとんど耳にしないようになりました。

 なぜでしょうか?

 かつての「ウォークマン」や「デジカメ」を創り出した技術イノベーションの心は、どこにいったのでしょうか?

 「奇跡の30年」が過ぎ、「失われた10年」が10年で終わらず、「失われた30年」になってしまい、すっかり、そのイノベーションの心は消えてしまったのでしょうか。

 「失われた10年」を克服し、みごとに立ち直ることができていたならば、「スマホ」や「音楽配信ロボット・アレクサ」は、日本が生み出した大ヒット商品になっていた可能性があります。

 ここでその「アレクサ」に関するおもしろいエピソードを紹介しておきましょう。

 私の相棒の長男「ユッツ」は1歳4か月です。

 最初に言葉を発したのは、沖縄に行く福岡空港のロビー内でした。

 急に私の方を見て、「おじいちゃん」と何度も繰り返しました。

 最近は、「おじい」がなくなって「ちゃん」だけになりました。

 そして、2つ目の言葉が「アレクサ」でした。

 ユッツは、この「アレクサ」から配信される「いない、いない、ばぁー」が大好きですので「アレクサ」と呼び掛けて何度も、その曲を聞かせていました。

 そしたら、この曲が終わると、かならず、なにかわからない言葉を発していました。

 しかし、それが何をいっているのかが、しばらくわからないままでした。

 そしたら、「ユッツがアレクサといっている」という話を相棒から聞き、その謎が解けました。

 アレクサに音楽を配信させ、それが終わるとユッツがは、たしかに「アレクサ!」と叫んでいました。

 同じことを何度繰り返しても、必ずユッツは「アレクサ!」と叫びます。

 こうして、ユッツが覚えた2つ目の言葉が「アレクサ」だったのです。

 「パパ」、「ママ」よりも先に「アレクサ」を覚えたのですから、これには時代の変遷を感じました。

 赤ん坊が、アレクサを通じて言葉を覚え、発する時代が始まっている、これが現代なのだと思いました。

 この「アレクサ」は、現代の技術イノベーションの申し子みたいなものです。

 「アレクサ」を用いて、わずかに1歳半弱の幼児が2つ目の言葉を発したという事実には、小さくない意味があり、これこそ「技術開発とは何か」、「技術イノベーションとは何か」を考えさせられた事例といえそうです。

 このような技術開発を行う教育機関をめざす、これが高専と高専生に与えられた使命ではないか、ここに深く分け入り、その新世界を創造していく必要があるように思われます
(つづく)

suisenn0207 水仙