前回の記事は、読者の方々によく読まれたようでアクセスがダントツに一位を占めていました。

 聞くところによれば、例の油性のマジックで顔に描いた文字がさっと消えるというコマーシャルがテレビにも登場してきたそうですが、それは、いよいよ危なっかしいゾーンに踏み入ってしまったのではないでしょうか。

 巧妙なトリックを用いて、その浅薄な科学実験を示しながら、それ自体には誤りはないものの、そこからの想像を誘起させて、結果的は「偽りの洗浄力」に導かせて「誤謬(ごびゅう)」を生み出させる、この意図には、「似非魔法使い」に通じるものを覚えます。

 こんなものが長続きするはずもなく、今はやりの「今だけ、金だけ、自分だけ」の典型性を感じます。

 さて、前回に続いて光マイクロバブル水による洗浄試験の続きを紹介しましょう。

 解りやすく説明をするために、再度前記事のまとめを示します。

 ①ペットボトルに描いた印・・・最初の実験においては消えた。

 ②ペット
ボトルに描いた印・・・二回目の実験では少しも消えなかった。

 ③壁用タイルに描いた印・・・少しも消えなかった。

 
④CDのケースに描いた印・・・みごとに消えた。

 ⑤床に描いた印・・・
少しも消えなかった。

 
これらの結果は、油性マジックペンで描いた線が、「消えた」と「消えなかった」に二分されています。

 このとき、④で再び、それが消えたことが気になりました。

 マイクロスコープで400倍画像を撮影して見てみると、CDの箱の表面は、ツルツルしていてなめらかな表面をしていました。

 それに対して、タイルや床、皮膚の瓢年は、いわゆる凸凹状態で、その凹の部分に油性のマジック液が溜まっていました。

 この部分には、指も拭こうとしている布も届きませんので、その払拭によって消えることはありません。

 CDと床やタイルの違いはなにか?

 それには表面の凹凸が関係していることが判明しました。

 床やタイルなどと同じように凹凸があるもの、それを探すと紙がありました。

 早速、例によって紙の上に油性ペンで描き、乾かしました。

   当然のことながら、この描いた線は少しも消えませんでした。

 これらの結果を踏まえて、単なる光マイクロバブル水には、描かれた油性ペンの線を消す能力はないという結論を下しました。

 
本稿で追加
 
 ⑥鏡に描いた印・・・
消える。水でも消える。

 それでは、なぜCDのケースに描いた場合には、なぜ、それがすんなりと消えたのか、この謎は解けないままでしたので、さらに実験を続けました。

 CDのケースの表面は比較的滑らか(顕著な凹凸がない)でしたので、

 「もっと表面が名滑らかでツルツルのものはないか?」

と思って研究室を見渡すと目の前に鏡がありました。

 これはよいものを見つけたと思って、早速、鏡の上に油性ペンで大きな印を付けて乾燥させました。

 案の定、この印は、さっと消えました。

 この結果より、表面が滑らかなものに油性マジックペンの液を塗っても、それは簡単に消えてしまうことが明確になりました。

 それは、光マイクロバブル水でははなくてもよく、普通の水道水でも同様に簡単に消すことができました。

 ここで、私が好きなシャーロック・ホームズさんに登場していただきましょう。

 かれほどに有名になりますと、必ず偽物が現れてきます。

 その偽者のホームズさんは、本物の真似ばかりをしていますので、本物ほどの巧妙なトリックを思い付きません。

 そのため、そのトリックをすぐに見破られてしまい、それが嘘だったことが明らかになってしまいます。

 その偽者の方が、シャワーで洗浄することに、そのトリックを使ったことにしましょう。

 「ここに油性の太いマジックペンがあります。これで描くと、その線や印が、普通のシャワーでは消えることはありません。そのことは、みなさん、よくご存知のことでしょう」


 この偽者さん、人を引きつける話術には長けていました。

 こういって鏡を取り出し、その上に油性のマジックペンで大きな印を描きました。

 「さあ、みなさん、これを消すことができるでしょうか」

 描いたものが鏡であることを巧妙に隠していましたので、周囲のみなさんは、そのトリックに最初は気づきませんでした。

 油性ペンの液が乾くのを待って、かれは、そのいかがわしいシャワーで水をかけました。

 そしたら、どうでしょうか。

 みるみるうちに、その印が消え始め、最後に、かれがさっと指で撫でて、その印を消してしまいました。

 ここで拍手喝采といいたいところでしたが、それには至りませんでした。

 それは、その手品を見ていた聴衆の一人が、このように尋ねたからでした。

 「あなたが油性ペンで塗って見せた滑らかなものは何ですか?私には鏡のように見えましたが、何ですか?」


 ここで偽者さんは慌てます。

 ずばり、その浅はかなトリックを見破られると心配したからです。

 「か、か、鏡です」

 「やはりそうでしたか!」

 ここで、周囲のみなさんも、それが鏡であり、その上に油性ペンで印を付けた後に、シャワーで流したらどうなるのかを思い浮かべ直しました。

 「私はガラス屋です。ガラスや鏡に油性ぺンでよく印を付けて仕事をしています。

 水性ペンですとすぐに消えますので使い物になりません。

 しかし、油性ペンであっても、水で濡らした布で拭くと消えてしまいます」


 このような経験を有していたガラス屋さんでしたから、この偽者さんのトリックは、すぐに見破られてしまったのです。

 ここでもっと賢い偽者さんでしたら、鏡ではなく、「さくら」として少年に箱入りのCDを持たせて、それを借りて油性ペンで描くという手の込んだ方法を用いたでしょう。

 ここに、すぐにバレてしまう「浅はかなトリック」と「より巧妙なトリック」との違いがあるように思われます。

 もちろん、本物のホームズさんは、もっと優れたトリックを考えられるはずで、それゆえに世界中の方々から深く愛好されたのではないでしょうか。

 ここで、ひとまず、偽者さんの浅はかなトリックショーの話を終わります。

 次回は、その巧妙なトリックと誤謬について、より深く分け入ることにしましょう(つづく)。

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   国東の来浦から東の海の方角を見る(遠くに姫島が見える)