家内のトレジャーハンティングを手伝った後で、再びK窯の商品の前で社長さんと論議を深めました。

 その最初は「醤油差し」でした。

 ここには、カワセミとウサギをモデルにした2つがあり、前者は先代が、そして後者は今の社長さんの作だそうです。

 親子で看板の作を競い合う、ここにはすさまじい芸術及び技術観が絡んでいて、その昇華が、それぞれの形に具現化されていました。

 カワセミかウサギか、これは購買者の好みの問題でもありますので、幸いにも共によく売れているとのことだそうで、それでよしとしましょう。

 親子であっても厳正な競い合いのなかで伝統が受け継がれていく様は、とても「ここちよい」ものであり、ここに「ARITA」の良さが潜んでいるのではないかと思います。
  
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          カワセミの醤油便(K窯のホームページより引用)

 次は、紅茶論議に移りました。

 すでに何度か紹介してきたように、私は紅茶好きで、毎日のように品を変えて、その風味を楽しむ生活をしています。

 最近は、ヌワラエリアをはじめとするセイロン紅茶、地元の杵築紅茶、さらには、いただいた台湾茶などに触れ、それらの微妙な味の違いを楽しんでいます。

 しかし、このように楽しみながらも、専用のカップのセットを持っていませんでした。

 今回の有田訪問は、非常に重要な出来事になるので、それを記念して比較的良いものを購入したいとも思っていました。

 じつは、約30年前の若いころに伊万里焼の窯元を訪ねたことがありました。

 それは、山口県周南市の中小企業のみなさんとともに佐賀大学の上原春男先生を訪ね、その際に上原先生の案内で、その窯元を見学しました。

 いくつかの窯元の作品を見ながら、私が魅せられたのが「畑萬」の茶器セットでした。

 梅の花をぎっしりと埋め込んだ格調高い模様があり、素晴らしい作品で、陳列のなかでは最も高い茶器だったと記憶しています。

 たしか、当時の価格で15万円はしたかと思います。

 これを気前よく買ったものですから、引率の上原先生や社長さんらも驚かれたようで、畑萬の方々も大変喜ばれていました。

 もちろん、家内も大変気に入り、今も大切に使用されていて、我が家では唯一の蓋付き湯呑になっています。

 この経験があり、今度も何か記念の茶器を買おうかと思い、それを物色していましたので、K窯の社長さんとの紅茶椀談義はかなり盛り上がることになりました。

 このK窯の看板茶器が、「ベルサイズシリーズ」でした。

 先代の社長さんが、ベルサイユ宮殿を視察してひらめいたのだそうです。

 このシリーズの特徴は、きらびやかな極彩模様にあり、しかも、この模様には凹凸が施されていることにありました。

 これを実際に手に取って観てみると、きらびやかというよりは、華やかさがしっくりくるといった方がよいと思いました。

ーーー なるほど、実物は違う、この良さはカタログやネットの画像では解らない。

 
よし、この紅茶椀セットを買おうかと決断しましたが、問題は、その色をどうするかでした。

 このシリーズは、紺、青、白、黄色、ピンクなどたくさんの色違いがあり、これらをそれぞれ買うか、それともすべて同じ色に統一するのか、これを決める必要がありました。

 社長さんから、ある横浜の奥様から黄色の茶碗の注文を受け、それを成功させて雑誌に掲載された事例が紹介され、さらに色付けとしてより難しいピンク色のカップが最近できあがったという説明を受けました。

 これらを耳にしながら、単色の6客セットにしようと密かに決め、その目でそれぞれを眺めているうちに、ここはやはり紺色が模様によく合っていて品があると思うようになりました。

 聞くところによると、この紺色の色付けは有田の特殊な技法のようで、太く幅のある筆にたっぷりと絵の具を付け、軽く押すようにして厚く色塗りを行うのだそうでした。

ーーー やはり、ここにも有田独特の工夫の技術があったのか!

 単色の紺の裏地のベルサイユ紅茶カップ6客、これを選んで正解でした。

 ここで、そのカップの隣にあった紅茶ポットが気になり始めました。

 それは、カップは買ってもポットがないとお茶は入れられない、しかも、この隣のポットは小さすぎて、紅茶を大量に淹れることができない、という懸念でした。

 「このポットは小さくて、もっと大きいのはないですか?」

 こう尋ねると、最初は「ない」という返事でしたが、そのうち製作中の大きなサイズのポットが一つだけあるとのことで、それを取りにいってくださいました。

 まだ、未完成のポットでしたが、サイズも丁度良く、これに色付けがなされるとかなり良いものになるのではないかと思いました。

 「これを完成させていただき、購入することはできますか?」

 もちろん、社長さんは二つ返事で了解されました。

 結局、この時に購入したのは、カワセミの醤油差しの大、紺色の紅茶カップ6客、同じく紅茶ポット、そしてアールヌーボー風のポットの蓋、魚の皿の5つでした。

 日ごろはお金を持たない生活をしていますので、それこそ金銭感覚に疎くなっている私ですが、この時ばかりは、畑萬以来の思い出の残る買い物をすることができました。

 これには、社長さんも大いに喜ばれたようで、予想以上の割引をしてくださいました。

 これから、このK窯とは、よい仕事ができそうなので、よい思い出作りができました(つづく)。

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ベルサイユの紺色カップ(K窯HPより引用)