今回の鹿野川ダムにおける実際の放流は、どのように行われたのか、そのデータを、下に示します。

2018-08-07 (2)
鹿野川ダム放流変化

 青線が鹿野川ダムへの流入量、赤線が、同ダムからの放流量です。

 時間軸は、右から左に向かっています。わかりやすくするために、特徴的な放流がなされた時刻が筆者によって挿入されています。

 この放流の特徴の第1は、7日の午前2時30分から、第1次の事前放流毎秒600トンが開始されていることにあります。

 その後、ダムへの流入量は急激に増え、同日6時30分には毎秒1500トンの流入に至っています。

 丁度、このころ上流の野村ダムでは、計画最大放流量毎秒1000トンを越えての放流がなされました。

 その水は、約1時間後の7時30分には鹿野川ダムに到達します。

 そして、同時刻の6時30分に、鹿野川ダムからの放流は、第1次事前放流を毎秒600トンを超えて増量されています。

 当然のことながら、この野村ダムからの放流量のほとんどが鹿野川ダムに流下してきますので、その放流に関する情報はすぐに伝えられていたと思われます。

 第2の特徴と問題は、この第2次の事前放流の時刻が遅れたことにあります。

 それは、この時点において、ダムへの流入量が毎秒1500トンを超えたことにあります。

 これは、鹿野川ダムの計画最大量と同じであり、上図からも明らかなように、急激に鹿野川ダムへの流入量が増えています。

 この急激な流入量の増大のために、第2次の事前放流毎秒850トン前後の放流は、わずかに10分程度しか継続できず、そのままさらに放流量をより増加させてしまうという操作になりました。

 これらをより詳細に説明するために、上図を拡大させた放流量曲線を次に示します。
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鹿野川ダム放流変化(拡大図)
 
 この図の縦軸は毎秒あたりの放流量と流入量、横軸は、時間です。

 先の放流量変化と比較して、時間軸を拡大していますので、より正確に放流量と流入量のの時間変化がわかりやすく示されています。

 この図からも明らかなように、7時10分前後に、第2次の事前放流毎秒850トンの放流がわずかに10分間のみにおいてなされていますが、これでは「焼け石に水」であり、ほとんどその効果は出ていません。

 前回の記事において紹介した2004年における事前放流とは大きく異なっています。

 これでは、適切な事前放流が行われたとは到底いえないはずです。

 第3の特徴は、7時40分からのわずか20分間において、ダム放流量を毎秒1074トンから毎秒2485トンに急増させたことであり、結果的に、この急激で大量の放流によって、下流に大きな被害をもたらしたことは、大きな問題であったといえます。

 じつに、20分間において放流量が毎秒1411トンも増やされたのです(赤矢印の部分)。

 これを毎分あたりに換算しますと、次のようになります。

 鹿野川ダムにおける毎分あたりの放流量増加(最大増加の20分間):毎秒70.55トン増/分

 野村ダムにおいても、同じようにわずか20分間において大量の放流量の増加がありました。

 野村ダムにおける毎分あたりの放流量増加(最大増加の20分間):毎秒48.45トン増/分

 両者を比較すると、鹿野川ダム放流の方が1.45倍も多く放流量を急増させていたのです。

 これで、ダム放流の操作が「適切であった」といえるとしたら、相当に支離滅裂ということができるでしょう。

 第4の特徴は、この急増の20分間において、鹿野川ダム計画最大放流量である毎秒1500トンを素早く通過し、それ以上の放流を短期間において行ったことです。

 すでに明らかにしてきたように、計画最大放流量とは、その放流において下流において被害を出さないぎりぎりの放流量のことです。

 これを短期間において、少しの中断もなく放流量の増加を続けたことにも大きな問題点が指摘できます。

 しかも、その放流が、「ただし書き」条項(ダムへの流入量をそのまま放流してよいという主旨のことが示されているらしい)の発動が可能なダム貯水位である87.5m(2004年の同ダムにおける洪水調節図より推定、前褐の図-2)よりも低い段階でなされていること、これも小さくない問題点として指摘できるであろう。

 第5の特徴は、上記の「ただし書き条項」に基づく放流が可能になる貯水位87.5m似に達したのが8時前後であり、それからも放流量が急激に増やされ、やっと、その流入量が、その放流量に追いついたのは9じ10分前後であり、この間、1時間10分ほども要していたことです。

 これは、鹿野川ダムにおいて大量の貯水量があったために起こった現象であり、この間、異常な放流がなされ続けていたのでした。

 これも大きな問題といえます。 

 第6の特徴は、上図をよく観察すると明らかですが、上流の野村ダムからの放流が約1時間を前後して鹿野川ダムに流入してくることを想定しての事前放流が行った形跡がほとんど見られないことです。

 図中の紅い太矢印は、野村ダムからの放流量時刻(図中に示された時刻)において放流された河川水が、鹿野川ダムに到達する時間を示しています。

 この赤い太矢印の横幅が、到達時間の長さを表していいます。

 この図からも明らかなように、野村ダムからの放流量が毎秒1000トンから毎秒1500トンが鹿野川ダムに到達した時には、すでに鹿野川ダムでの放流は、上記の放流量の急増時間帯になっています。

 これだと、ほとんど何も野村ダムからの放流に備えての対策はなされていなかったといえるのではないでしょうか。

 第6の特徴は、その結果として、ほとんど有効な事前放流がなされず、しかも野村ダムからの大量の放流に対しての有効な事前放流(第3次事前放流といってもよい)が、なされず、ダムに溜めるだけ溜めて、そのために貯水位が急増し、ダムが危険になると、今度は、急激に放流量を増大させ、下流に被害をもたらしたことにあります。

 第7の特徴は、事前放流量毎秒600トンと比較して6.2倍の毎秒3726トンもの大量の放流を行ったことです。

 すでに述べてきたように、この大量の急激な放流においては、事前放流がほとんど有効でなかった、あるいは、それを有効に行うタイミングを失ったために、さらには、野村ダムからの「ただし書き条項」に基づく大量で急激な放流に対する有効なダム放流操作ができなかったことで、一挙に最大で毎秒3726トンもの大放流を行ってしまったのです。

 ここで、さらに深刻な問題は、計画最大放流量毎秒1500トンに対して、その約2.5倍もの放流を行ったことです。

 最大に流してよい量の2.5倍もの放流を行ったのですから、これでは下流で大被害が発生するのは当然のことといっていよいでしょう。

 国土交通省四国地方整備局の担当者は、このような操作を「適切であった」と述べたそうですが、これでは、これまでの洪水対応を失墜させてしまうのではないでしょうか。

 それでは、なぜ、このように両ダムにおいて、事前放流がほとんど役立たず、小さくない被害をもたらすことになったのでしょうか?

 それには、次の本質的な問題が横たわっているように思われます。

 ①昨今の大量の降雨によって、ダムが危険になるほどの流入があるこことに関する過信があったのではないでしょうか。

 それが、ダムに雨水流入量を貯めても、なんとかなるという錯覚を生みだしたのではないかと思います。

 ダムには時々刻々と降雨量とその流入量のデータが送信されてきますので、それを逐次正確に分析し、有効な量の事前放流を機敏に行うことができるようにする必要があります。

 ②それには、現行のダム放流規則には問題があり、事前放流の精度をさらに向上させることが重要です。

 洪水被害を未然に防ぐには、計画最大放流量にいたるまでに、何段階(第1次から第3次まで)かの事前放流を可能にすることが重要です。

 今回の災害を教訓にして、全国のダムにおいて、その操作規則の全面的な見直しと改定が必要であるように思われます。

 被災者のみなさま、どうか、元気になられて、この災害に打ち勝ってください。

 心より祈念いたします(この稿おわり)。

hazetowaktake
ハゼの花と若竹