今朝の新聞報道によれば、国土交通省四国地方整備局は、今回のダム災害の結果を踏まえて、その放流規則の見直しを始めたようです。

 これは、当然のことであり、まずは、問題点の解明がなされることが期待されます。

 さて、本日は、今回のダム災害において、最も重要な論点となりうると思われる、

 「洪水氾濫を避けることはできたのか」

について、より深い検討を行なうことにしましょう。

 参考までに、これまで示した放流量曲線において新たに緑の点線部分を加えた図面を示します。
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 すでに、明らかにしてきたように、今回のダム災害の特徴は、次の6つにあります。

 ①調節放流を貯水量が100%を超えた(午前5時20分)にもかかわらず、それでもなお、調節放流のままで午前6時まで放流し続けた。

 ②これによってダム貯水池は満水以上の状態になり、慌てて午前6時になって急激にダム放流量を異常な速度で増加させていった。

 ③その際、予備放流を行った形跡はどこにもなく、さらには、計画最大放流量である毎秒1000トンを超える際も、その放流量増加に対する中断措置はなく、7日午前6時50分まで、50分もの長きにわたって放流し続けた。

 ④この50分間の放流量加速度は、21.7 ㎥/(分の2乗)という異常な放流量増加加速度であった。

 ⑤結果的に、最大放流量は、7時50分において毎秒1797トンにまで達し、計画最大放流量の約1.8倍もの放流を行った。

 これによって下流が氾濫し、急激な洪水水位のキ急上昇をもたらした。

 ⑥この計画最大放流量毎秒1000トンを超えて放流し続けた時間は約2時間半もあり、氾濫を伴う洪水の長期化をもたらし、被害を拡大させた。
 
 以上を踏まえ、どのように対処すれば、洪水被害を軽減あるいは回避できたのか、この問題に分け入ることにしましょう。

 上図において、赤の点線で囲まれた部分と同じく緑の点線で囲まれた部分をご覧ください。

 まず、後者において、青線(ダムへの流入量)と赤線(ダムからの放流量)に囲まれた部分、これが、その時間においてダム貯水量における増加部分です。

 この部分と、赤線で囲まれた部分、すなわち計画最大放流量毎秒1000トンを超えた際の放流量の部分の面積がほぼ一致します。

 これは、その計画最大放流量を越えて放流した量を、それを超える前に放流、すなわち、予備放流できたことを示唆しています。

 それでは、その予備放流が実際に可能であったかどうかの検証を、以下具体的に行うことにしましょう。

 ダム管理事務所には、ダムに集まってくる雨量の降雨状況が逐一入ってくるようになっています。

 この雨量データを踏まえれば、ある程度のダム貯水池への流入量が予測できます。

 この流入量予測を行いながら、この野村ダムにおいても予備放流を行うことができるようになっています。

 その規則に基づけば、貯水池の水位が167.9m以上になったときには、調節放流量の毎秒300トンから予備放流量を毎秒400トンに増加させて洪水制御を行うことが示されています(野村ダムHP参照)。

 今回の操作においては、この予備放流がなされた形跡がまったくありません。

 すでに述べてきたように、貯水池の貯水率が100%になったのは、7日の午前5時20分です。

 この時点での貯水池の水位は、169.4mです。この水位は、「平常時最高貯水位」と呼ばれています。

 すでに、この時点で実際の水位は、予備放流を行う水位167.9mを1.5mもオーバーしていたのです。

 なぜ、このような操作になったのでしょうか。
 
 メディアの報道によれば、国土交通省側は、「ダムの容量を空けて備えたが、予測を上回る雨だった。規則に基づいて適切に運用した」(毎日新聞、7月15日)と説明をしているようですが、これには、次の問題があります。

 ①野村ダムにおいては、「ダムの容量を空けて備えた」のではなく、実際には「満杯にして備えた」のであり、この点は、正しくありません。

 ②「予測を上回る雨だった」、たしかにそうですが、ダムにはダムに流入してくる雨水の観測データが逐一入ってきていますので、その予測はある程度できたはずです。

 ③「規則に基づいて適切に運用した」、この見解も正しくありません。

 実際には、ダムの容量を空けて備えておくべきなのに、それをせず、逆に満杯にして、洪水調節をしようとしたのであって(一部の報道では、国土交通省が、そのような洪水制御を行って、下流の住民の洪水被害を防いだという発言をしている)、これは規則に適合していません。

 ④予備放流をすべき水位になっても、それをせずに、貯水池の水位が、その水位から1.5mも増加していたのであって、これも、不適切な運用といえます。

 ⑤最大の不適切は、満水になってからも40分間の長きにわたって予備放流の操作をせず、6時になって慌てて大量の放流を、しかも急速に増加させていったことです。

 ⑥この時点で、おそらく、「ダムが決壊する恐れがある」とようやく気付いたのでしょう。慌てて、放流量を急激に増やしていったことが、それに現れています。

 ⑦しかも、その途中で計画最大放流量の毎秒1000トンを超える際には、何らかの検討と放流量の減少か足踏みがあってもよいはずですが、実際には、その余裕もなかったのでしょう。

 ⑧これによって最大で毎秒1797トンという信じられないほどの放流を短期間に行うということになったわけで、これによって、下流の住民のみなさんの被災よりも「ダムの決壊の恐れ」の方が優先されたことになりました。

 これらを「適切な運用」と言い張るのでしたら、それこそ異常だといわざるをえませんね。

 さて、前置きが長くなりましたが、私は、以下の操作がなされるべきであったと思います。

 1)7日午前2時30分ごろから、ダム貯水池への流入量が増加し始めています。満水時は5時20分ですから、この間が170分です。

 午前4時ごろの貯水率は80%になっていて、雨は降り続け、流入量もどんどん増えていますので、これを前後して予備放流の毎秒400トンに切り替えるのが良かったのではないかと思います。

 しかし、毎秒400トンの放流量では、その絶対値が小さいことから、その程度の予備放流量では対応できないことが指摘されますので、これを今後見直す必要があるでしょう。

 その際、計画最大放流量は毎秒1000トンですから、そこの至る過程において、予備放流量を順次増加していくことを規則化する必要があります。

 重要なことは、計画最大放流量内であれば、なんとか下流の被災を回避することができたわけですから、この対応に不備があったといえます。

 今回の場合、5時20分に貯水率100%になったので、この時点から流入量分をそのまま放流し、計画最大放流量内で放流を継続させるという操作を臨機応変に行うのが良かったと思います。

 以上をまとめると、予備放流を行う水位、すなわち、水位169.7mになった時点で、すぐに予備放流毎秒400トンを行い、さらに、降雨の状況と流入量の増加を考慮しながら、それを順次、毎秒500トン、600トンと小刻みに増やしていけば良かったといえるでしょう。

 もし、その小刻み増加が規則上できなかったのであれば、満水時点で、その流入量を計画最大放流量に至るまでに放流することが適切であったように思われます。

 このような操作がなされたとすれば、被害は回避できたはずであり、それが生じたとしても軽微な段階でし済んだのではないかと思われます。

 「回避ができたことを実際には回避できなかった」、こうであれば、そこに小さくない問題があったということになります(つづく)。

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 早くもコスモスが開花(大成研究所の前庭にて)