今回で3回目、これで終わりです。

(3) 高専教育における活路の探究

50年余の高専における教育目標の変遷を示す.

1期:実践的技術者,中堅技術者の養成,大学に準ずる(創立~1980年)

2期:実践的技術者,豊かな人間性(19812003)

3期:創造的技術者の養成(2004年~現在).

創立当初の教育目標の特徴は,東京工業大学の教育カリキュラムを手本にしながら,「理論と実践」という範疇を用いて,前者は大学が,後者は高専が担うと区分され,産業界の養成に依拠して,「大学に準ずる」,「中堅技術者の養成」に傾注した.

しかし,この後2者の指向には「現場不適合の無理」がいくつも生じ,第2期に移行した.

残った実践的技術教育は十分に深く追究できなかった.

その後「専科大学」構想が登場し,2度にわたって,その発足を示す文部大臣による記者会見までがなされたが,それは幻に終わり,挫折した.

その代償として,内部改革で済む「専攻科」構想が登場し,全高専に専攻科設置という今日の事態を迎えた.

この専攻科設置に際して,新たに専攻科生を対象として示されたのが「創造的技術者論」であった.

本科は実践的技術,専攻科は創造的技術者の養成という二段階の目標設定であった.

なお,現在は,「創造性豊かな実践的技術者」という目標に修正されている(高専機構HP参照).

また,最近になって「専門職業大学」論議が起こった際には,高専は,この流れに同調せず,全国を6ブロックに分けての「7年生高専づくり」の論議を深めた.

しかし,この流れは,高専の将来を検討する「有識者会議」3)による「現状を維持」の結論によって完全に消失した.

以上を踏まえ,これから直面する困難の壁を前にして,それを突破する高専の活路を次に列挙する.

 ①製造業の再生を担う人々としての自覚と社会的使命を抱き,深める.

 ②「創造性豊かな実践的技術者」論を止揚し,多重大困難を解決するために「豊かな発想力」を生み出し,それを実践できる技術者養成論を構築する.

 ③技術者としての自立と共感,協力を促進させる教育的洗練を可能にするプログラムを開発する.

 ④決定的に重要なことは,自立のための「独創的な起業教育」を自前で開発し,教育的洗練を遂げていくことである.欧米よりもはるかに遅れている「起業精神」を実践的に確立することが重要である.

 ⑤全国の高専と両技科大を軸とした協力共同のネットワークをより強固に発展させ,その連合の確かで豊かな構築をめざす.

 これらの課題を真摯に解決していくことが高専生に賦与された社会的使命と役割ではないであろうか.

 

5.まとめ

 

能動的な学習法において最も重要なことは,学ぶことの社会的意味を理解し,そのことを「天与の賦」と確信できることである.

多重大困難を前にして,それらを突破できる発想力と粘り強い人間性,豊かな共感力,自立による起業精神、これらの洗練がAI時代を生き抜く愉快な手段となるであろう. 

 

参考文献

1)      坂本雅子:空洞化と属国化‐日本経済グローバル化の顛末‐,新日本出版社,2017

2)      磯田道史:池上彰五夜連続BIG対談,BSTBS放送,第三話,2018

3)       文部科学省HP:高等専門学校の充実について,2016.

 

(つづく)。


 写真は、まだ枯れずに残っていた紫陽花です。西邸の玄関先に咲いていました。

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紫陽花(西邸の前庭にて)