昨年末に、小説家の葉室麟さんが他界されました。

 まだ、66歳と若く、真に惜しい急逝でした。

 新聞記者から54歳で作家に転身され、とくに九州地方の歴史を題材にした小説は真に秀逸でした。

 私は、2018年の1月末から68日間の闘病生活を送りましたが、その折に、かれの小説に出会ってからは、彼の作品を集中して読み始めました。

 若いころは、松本清張の社会推理に驚嘆し、T高専時代は、旅に出ることが多く、その時は決まって森村誠一の本を持参して読み耽りました。

 そして、入院中は時間のゆとりができましたので、葉室麟の小説世界に没入することができました。

 なかでも、思いで深いのは、『銀漢の賦』、『柚子の花咲く』、『無双の花』、「霖雨」、そして直木賞となった『蜩ノ記』などがあります。

 とくに、最後者は、ここ国東を舞台にした物語であり、より親近感を抱いて読み進めることができました。

 かれの小説の特徴は、次の3つにあると思います。

 ①地方の小さい藩の名もない侍を主人公にし、その信念と正義を貫き通す潔さが示されています。

 ②かれ自身、小説とは、「心のうたを書く」ことであると称したように、人生の心、人の心のあり方に関する賛歌を描き続けました。

 ③歴史的事実と背景を踏まえながらも、そこに新たな出来事や描写を加え、独自の歴史物語のおもしろさを創造することに成功しています。

siroihana
散歩の途中で
 
 以上を踏まえ、ここでは、個別の小説として代表作の『蜩ノ記』を取り上げることにしましょう。

 この小説の主人公は、大分の国東半島を所領とする小藩の侍、故あって、この藩のお家騒動の責任を負わされ、藩主から10年後に切腹せよとのお沙汰がありました。

 また、その間に、藩の歴史書づくりの仕事も命じられます。

 かれは、この国東の地で、ひたすら、その藩史づくりに励み、生活のために農耕にも勤しみます。

 また、この地では、「七島イ」と呼ばれる畳表にする植物の栽培がなされており、その加工においても知恵を働かせたのでしょう。

 やがて、この七島イ栽培と畳表の加工は、この地の重要な地場産業へと発展を遂げていきます。

 映画においても、この七島イ加工のシーンが再現されています。

 このような地方における独特の農業や産業を小説内に取り込んでみ、地方色を豊かに描きだすことが、この葉室の特徴でもあります。

 私も、こちらに移り住んで5年余、この七島イ栽培の火が消えそうになっていると聞いて、この栽培の新たな開発法を、あれこれと研究してきました。

 「石の上にも三年」といわれていますが、その研究をしてきたこともあり、この「蜩ノ記」の小説を読み、そして映画も繰り返し見続けてきました。

 この小説の主テーマは、どんな事情があろうとも、与えられた仕事をやり遂げ、命に服することで「人間としての本懐を果たす」ことにありました。

 この本懐を遂げる「潔さ」、これがじつに鮮やかに描かれていました。

 「私の場合、この「蜩ノ記」は、どのように置き換えられるのであろうか?葉室様、あなたの思いを大切にしなければなりませんね」

 2018年の初春に、ふと、そのような思いが頭のなかを過っていきました(つづく)。

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                 サヤエンドウの葉