本日は、雲一つない快晴、「天高く馬肥ゆる秋」の空です。

 緑砦館北棟の研究室2における生活が始まって1週間が経過しました。

 竣工とはいわれても、まだ未達成の部分もあり、ようやく、本日になって電気系統と水道の使用が可能になりました。

 こう書くと、「最初は電灯も点かず、水道も使えないところで寝泊まりしていたのですか?」と尋ねられそうですね。

 実際には、その通りの寝泊まりでしたので、なかなか味わうことができない「乙な生活」を体験することができました。

 さて、前置きは、これくらいにして本題に入りましょう。

 イ・ビョンフン監督のすばらしさは、韓国歴史物語における主人公の描き方にあります。

 たとえば『ホジュン』を例に取り上げますと、かれは、歴史上の人物であり、王医であったという記録が残されています。

 また、ホジュンは、日本を含む東アジアに影響を与えたといわれている、名著『東医宝鑑』25巻を執筆した作者でもありました。

 しかし、若いホジュンが医学をどのように勉強し、王医にまで上りつめたかについては、そして、『東医宝鑑』を、どのようにして執筆したのかについては、ほとんど記録が残っていません。

 そこで、イ・ビョンフン監督は、想像力をみごとに発揮させて、若いころから晩年までのホジュンの成長物語を克明に描いていくことに成功しました。

 ホジュンのすばらしさは、そしてすごさは「粘り強さ」にあります。これが第1の特徴であり、これはすべての物語に共通しています。

 踏まれても、蹴られても、そして裏切られても、そこから這い上がり、不利を有利に変えて、絶体絶命の状況を乗り越えていきます。

 これは、『チャングム』や『馬医』などの他の番組の主人公においても発揮されています。

 日本人もそうですが、徹底的に虐げられても、そこから不屈に立ち上がる姿を、韓国の方々も大いに好まれるからでしょう。

 とにかく、ここまで明確にするのか思うほどに、敵・味方、正義・不正義、白黒を区別して相競い合わせますので、その物語においては、常に互いの「どんでん返し」の連続となります。

 この度が過ぎて、「またか」と思うこともありますが、急展開の連続が、これらのドラマのもう一つの特徴といえます。

 第2は、敵が権力や金、そして組織を用いて攻撃してくるのに対し、それを「賢さ」で切り抜け、しだいに追い詰め、最後には駆逐してしまうことです。

 この賢さとは、知恵であり、工夫です。

 ホジュンの場合は、それが医学を習得し、究めることに結びついていきました。

 ヒトの命は絶対的なものですから、それには権力や金、そして巨大な組織といえども、まったく通用しません。

 医を学び、身につけることが、ホジュンにとっては唯一ともいってよい武器であり、すなわち、かれらへの最も有効な対抗手段を持つことだったのです。

 しかし、「真の医」を求め、修得していくことは並大抵のことではありませんでした。

 その学究において大きく立ちはだかったのが、生涯の師となるユ・ウィテ(俳優イ・スジョン)でした。

 かれは、民間の医者としての名声を得るほどの、いわば叩き上げの「医の達人」でした。

 常に医の現場で実践的に患者を救う医術を追究してきた第一人者であり、ホジュンにとっては雲の上のような存在でした。

 かれの名声に肖ろうと、すでに何人もの弟子たちがいて修行を重ねていました。

 ここに何とかして弟子入りしようとしますが、その弟子たちは、ホジュンというライバルの出現を好ましく思わず、事あるごとに邪魔をし、いじめようとします。

 そして、この弟子たちとは比較にならないほどの強大なライバルが、ウィテの息子のイ・ドジでした。

 いわば、医者としては、はるか先の先輩であるイ・ドジとの医者生命をかけた闘いが繰り広げられます。

 虎の威を借りる、ではなく、親の威を借りたドジとの闘いは、どんどんエスカレートしていき、最後は宮中の内医院(ネイウォン)にまで達していきます。

 ひたすら真摯に医を学ぼうとするホジュンは、やがてイ・ウィテに認められるようになり、自分の実質の後継者を息子のドジにではなく、ホジュンを選ぶようになります。

 このイ・ウィテという第1人者を師として選ぶことができた、これによってホジュンは大きく成長し、ウィテがいう「心医」とは何かを学びました。

 反対に、息子のドジは、この「心医」を最後まで理解することができずに、ホジュンよりもはるかに後塵を拝すことになってしまいました。

 生涯の師を得る、これが主人公における第3の共通の特徴といえます。

 『オクニョ』においては、この師は二人いて、学問の師は、チョノクソに囚人として収監されていたイ・ジハであり、戦略・戦術の師は、同じく地下牢に長年押し込められていた密偵(「チェタミン」と呼ばれる)のパク・テスでした。

 このパク・テス役が、ホジュンを演じたチョン・ガァンリョルでした。

 イ・ビョンフン監督の特徴のもう一つは、名脇役を、いくつかのドラマを跨って長期にわたって使うことにあり、今回は、その
チョン・ガァンリョルがオクニョの師としてすばらしい脇役を熟していました。

 因みに、イ・ウィテ役のイ・スジョンは、『馬医』においても、主人公の師として登場し、かれの成長に重要な影響を与えています。

 そして、第4は、主人公の成長、すなわち、学問を実践的に究め、人間として立派な人格を形成し、国の命運を左右する大事業を成功に導いていくことです。

 未曽有の困難を前にして、苦しみ、悩みながらも、その賢さを梃子にして、みごとに解決していくことで成長する姿は、とても新鮮で魅力的です。

 この主人公が成長していく魅力が、ドラマそのもののおもしろさを鮮やかに誘起させているといってよいでしょう。
 
 以上が、イ・ビョンフン監督が描き出す主人公における共通の特徴ということができるでしょう。

 次回は、ホジュン他の主人公の具体的なエピソードについて、より深く分け入ることにしましょう(つづく)。

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