このところ、お隣の緑砦館の建築現場に1日2~3回ほど顔を出すのが、私の日課として定着してきました。

 それは、新たな建築の進み具合を見つけ、場合によっては、その工法を大工のUさんに尋ね、その訳(技術的説明)を詳しく知ることに小さくない興味を抱くようになったからでした。

 緑砦館の場合、大手のホームメーカーや工務店の建築法と違って、数多くの木材(通常の建築の数倍の量)や左官材料を使用していますので、それこそ膨大な手作り的作業が必要になります。

 とくに、大工さんの場合、先月は、天井に3種類の断熱材および壁を敷設するのに大変な作業量がありました。

 屋根の直ぐ下には、厚さ60㎜の断熱ボードが敷かれ、その下には、繊維状のポリエステルが厚み100㎜で挿入され、それを石膏ボード壁で囲むという3重構造になっています。

 これらの間や周囲には各種サイズの木材が付設されていますので、これらの大工作業だけでも、気の遠くなるような量でした。

 しかし、さすがはプロであり、暑い中、これらの作業をどんどん進めて、それこそあっという間に、その作業をほとんど終えてしまいました。

 この屋根から天井にかけての作業と同時に、外壁パネル板の設置も進行していきました。

 周知のように、外壁は、それぞれ置かれた状況が違いますので、そこに合ったパネルを切り出す必要があります。

 いわば1枚1枚、オーダーメイドで作成していかねばならず、それを切っては現場合わせをして張り合わせていくという膨大な作業を、それこそ飄々と継続され、これも2週間程度ででき上りました。

 3人の大工さんには、それぞれ役割分担があり、天井、外壁、その他の内装工事などの分担がなされ、それらが効率よく進展していきました。

 それにしても、大工さんの取り扱う木材の量、それに打ち込む釘の量、切り出すノコギリの切りくずの量、石膏ボードの枚数、断熱材の膨大な量など、これらには驚くばかりでした。

 東京のある建築主が、「私の家には木材は一つも使われていない。だから、今、静岡に木材だけの家を建築中である」といっていました。

 今の住宅は、ほとんど木材を使用せずにでき上っていくものが多いようで、緑砦館のように大量の木材や断熱材を用いることはほとんどないと、その大工さんたちがいっていました。

 現に、近くに建築中の住宅は、私どもよりも約1か月遅く建築を開始し、より1か月早く完成するようであり、それが可能になるのは、大工さん、左官屋さんの仕事が極端に少なくなっているからだと思います。

 ですから、私は、大工さんと左官屋さんに、「この緑砦館建築は、あなた方にとってはやりがいのある仕事ですね」、こういうと、喜んで「そうです。こんな仕事はめったにありません」と返答されます。

 そして、膨大な作業であればあるほど、かれらの職業意識をくすぐるようで、それにかける意気込みや愛着も桁外れに大きくなるのだそうです。

 しかし、その建築途中では、想定していた以上のことが起こり、見えてきて、はたと困ることがあります。

 それが、次の「トイレのドア問題」でした。
 
 ⑤ トイレのドア
 
 緑砦館には、トイレが2か所で設計されています。

 研究所棟(南棟)では、大小の便器を設けたために比較的広いスペースを確保できたことから、何も問題が起こりませんでした。

 しかし、北棟(住居棟)のトイレは、南のWIC(ウォークインクローゼット)と廊下を挟んで配置を考えたことから、そのスペースに余裕がありませんでした。

 しかも、このトイレは寝室に接して配置しましたので、そのための制約を受けることにもなりました。

 さらに、この設計においてはユニバーサルデザインを採用しようということになったことから、三重、四重の制約を受けることになりました。

 その問題は、車イスを用いて、そのスペースをよく考慮していなかったことから発生してしまいました。

 「当初の予定のトイレの扉(3つ折り扉)では、車イスに座ったままでトイレに入れない。車イスの幅は確保できるが、その車輪を指で掴んだままではトイレに入れない」

という報告がありました。

 トイレに入れないのでは、どうしようもない。

 「何かよいアイデアはないのか?」、まず、設計士、大工のUさん、ドアの専門業者の間で検討が始まりましたが、それでも車イスが楽に入ることができるドアがなかなか見つかりませんでした。

 そこに、この相談を受けた私どもも参加することになり、さまざまな検討が始まりました。

 「ここは、実際に車イスを持ってきて、現場で試してみるのがよい」と思い、それを実験してみると、次々に問題が明らかになりました。

 1)トイレの中で車イスは回転できない。前を向いて入った後に、後ろ向きでドアを閉めなければならない。

 2)トイレから出る時も後ろ向きで出て行かねばならない。

 3)その後ろ向きの状態でドアの開け閉めがきちんとできるのか?

 4)車イスで入れても、そこからどう立ち上がり、どう身体を反転させて便器に座り、そして立ち上がり、再び車イスに座るのか?

 5)車イスに座って、自分で用足しができるときまではよいが、それが自力ではできなくなった場合に、それをどうするのか。

 考えてみれば、これらの問題点が浮上してきて、それこそ、「ああだ、こうだ」で、ますます喧々諤々(けんけんがくがく)となっていきました。

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車イスとトイレ(奥は脱衣場スペース)

 私は、病院の設備を参考にして、上記4)までは通用する案を提示しましたが、その案では5)が困難になり、そこから、どうするかで、さらに、喧々諤々の検討が続きました(つづく)。