なぜ、専攻科設置をめぐる議論が重要で、後に大きな影響を与えるようになったのか。

 今振り返ってみますと、その考察が非常に大切であることがよく解ります。

 その理由の第1は、専科大学論議、そして、その結末が「騒動」でしかなかったのに対し、専攻科設置問題は、現場の教員にとって提示された初の「高専の改革問題」だったことにありました。

 それゆえに、少なくない教員において戸惑いが生まれたことも自然のことでした。

 第2は、専科大学騒動の挫折後に、その一定の反省を踏まえて、そっと方針転換がなされたのが「専攻科設置」問題であり、その是非を含めて、ほとんど何も議論や検討がなされていなかったという不十分さがあったことでした。

 もちろん、しばらくして、大学審議会高専分科会において、その審議がなされるようになりますが、そこでは、専攻科設置の是非まで掘り下げての議論と検討がなされることはありませんでした。

 そこで、当時の高専教員の現場でなされた議論の特徴と本質をより深く検討することにしましょう。 

 そのために前述の「不要論」を再記し、それらをより深く考察してみることにしましょう。

 ①専攻科が加わると、高専が高専でなくなる。高専は完成教育を行うところだったはずである。

 「高専が高専でなくなる」、専攻科設置に伴った増える定員はわずかに4名、本科の定員の1割にすぎませんでしたが、それとは関係なしで、何か不安を覚えたような意見でした。

 その理由は、高専は「完成教育」を行う期間であり、この専攻科設置によって、それが崩れてしまうということにあったようでした。

 しかし、この「高専完成教育機関」説は、その時点ですでに破綻していました。

 それは、高専から大学への編入学が2~3割にも達していたからでした。

 この高専生の進学指向は強く、G高専では、クラスの1名を除いて全員が大学に進学する現象まで出現しました。

 またO高専の教員は、クラスの成績で最下位クラスの学生が、どんどん、国立大学に編入学していけるので、学生が少しも勉強しないと嘆いておられました。

 このように、完成教育論は、すでに崩壊していましたので、これを露骨に振りかざす意見はありませんでしたが、「高専が高専でなくなる」という意見は根強く存在していました。

 この心配をもう少し詳しく解説すると、それは、「高専が専攻科を持つようになれば、現在までの高専ではなくなる」ということになります。

 これは、まさに「いいえて妙」といってもよいでしょう。

 わずかに1割の定員であっても、高専に専攻科を設置することは、それまでの高専の歴史を大きく変えてしまう特徴と性格を有するものでした。

 ですから、「高専が高専でなくなる」説は、もともと専攻科設置に消極的な意見として出されたのですが、逆に、設置に積極的な意見を巻き込んでの議論として発展することになりました。

 すなわち、「高専が高専でなくなることには意味がある」、むしろ「それは是ではないか」という主張を生み出すことになりました。

 問題は、「どのように、高専が高専でなくなるのか」にありました。

 ここで重要なことは、「高専が高専でなくなる」ことを高専教員は、創立以来約25年間、一度も議論したことはなかったことでした。

 「高専が高専でなくなる」、つまり、高専制度を論ずることは「タブー」であり、その機会を上から与えられたことは一度もありませんでした。

 それゆえ、高専の内的発展の方法(法則)を論じ、探究することは、ほとんどなされてはいなかったことでした。

 じつは、「高専が高専でなくなる」論こそ、そのタブーを打ち破り、堰を崩して流れる水のような役割を果たすことになったのです。

 議論は、「高専が高専でなくなる」に、「高専を高専ではなくする」ことが加わり、ますます盛り上がっていきました。

 ここには、「高専の内的発展法則」を論ずる萌芽がありました。

 当然のことながら、専攻科を設置するというのであれば、それが、高専をどう発展させることに結びつくのか、慎重派からは、このような質問が投げかけられることになりました。

 ところが、積極派は「多勢に無勢」、結局のところ、その矢面に立てる者は少なく、私が、その役割を果たすことになりました。

 これは、私にとっては小さくない刺激となり、その議論の当事者の一人として、「高専の内的発展法則」を究明し、豊かに発展させていかねばならないことを痛感させられた出来事ともなりました。

 盛り上がった議論は、専攻科設置によって「高専を、内部から、どう発展させるか」、すなわち、高専の内的発展法則をめぐる本質に向かって流れていきました。

 次回は、その本質的流れに分け入ることにしましょう(つづく)。
 
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                          白い花の百日紅