沖縄入りしてから、私が真っ先におこなったことは野菜事情の調査でした。

 幸いにも、近くにスーパーがあり、そこに何度か通うことで、およその傾向が明らかになっていきました。

 その第1は、沖縄県産の野菜が極端に少ないことでした。そのスーパーでは、わざわざ「沖縄県産野菜」というコーナーがありましたので、この比較が簡単でした。

 問題は、その比率にありますが、沖縄産を1としますと、他府県産は9の割合でした。その日の事情によって、この比率は変わりますが、沖縄県産品が多い場合でも、その比率は1対4程度でした。

 この比率を示した時に、沖縄では、1対9のうち、9が沖縄県産品ではないかと推定される方が意外と多く、これによって、正確な野菜事情の認識がほとんどできていないということが判明しました。

 また、これは輸送経路の問題でしょうが、沖縄の場合は、全国各地からの輸入が多く、長野のレタス、愛知の大葉、福岡のホーレンソーといった具合で全国的に有名な野菜が沖縄に持ち込まれていました。

 この事情は、たとえば大分の国東と比較しますと、他府県からのものでは熊本と福岡産が多く、それ以外はほとんどありません。

 第2は、スーパーで売られている野菜の値段が総じて高いことでした。これを国東と比較しますと約2~3倍、他の大分県内の地方都市と比較しても1.5~2倍、東京など大都市とほぼ同じではないかと判断しました。

 「野菜の値段が高い。高いと買えない。買えなければ食べない。おまけに、県産の野菜は非常に少ない」

 「そうです。それが沖縄の野菜事情の特徴といえます。

 辺野古の基地建設問題に観られるように、政治的に自立しようとしても、そこに国という大きな足かせがありますが、同じように、沖縄の野菜においても、自立できていないという、小さくない問題が横たわっているように思われます」

 「その沖縄の野菜事情の問題は、沖縄の農業や小売り、流通業にまで関係していますね」

 「そうですね。

 沖縄の農業改革については、みなさんが相当なご努力をなされていますが、いまだ、その光明は見えていません。

 亜熱帯気候、すなわち、沖縄の暑くて長い気候の特徴を生かした農業技術のイノベーションを起こすほどの『知の創造』が、未だ実現できていないのではないでしょうか」

 「それは、あなたのマイクロバブル技術とかで、実現できる可能性はありますか?」

 「可能性は大いにあると思いますが、大切なことは、それをコツコツとどう積み上げていくかどうかにあります。

 そのために、思い切った実験(場所と協力していただく人)が必要ですね」

 「先ほど、『沖縄の亜熱帯気候を生かす』ということをいわれていましたが、それはどういうことなのですか?」


 「沖縄の夏は、たしかに暑くて長いのですが、それは海洋性気候の影響を受けていますので、内地の猛暑地ほど気温は上昇しません。

 ですから、夏場においてもちょっとした工夫で野菜を育てることができますし、秋から冬になれば、その温暖な気候を利用して野菜を育てることができます。

 すでにいろいろな試みがなされていますが、それらには、ブレイクスルー(突破)に至るほどの領域には達していません」
 

 「なるほど、作る側、そしてそれを買って食べる側にも問題がありますね」

 「そうですよ。先日の沖縄の平均寿命が46位になってしまったという報道は、私にとってもショックでした。これには、沖縄県民の野菜の接種率が同じく46位であること深く関係しています」

 「そうですか。野菜の接種率が46位であるということは知りませんでした」

 「先日、車を運転されていた親戚の方が、『タコライス』のことを紹介してくれました。

 その家では、月に1回『タコライス』を食べるそうで、家族に人気で、この時は野菜をみんなでよく食べると話されていました。

 私は、『タコライス』と聞かされ、最初は「蛸飯」を頭に思い浮かべました。

 国東でも蛸飯はよく食べますよ。都会では、最近は真蛸がなかなか手に入らず、蛸飯を食べる機会が減っているそうですよ。

 こう喋っても反応はなく、何かおかしいと思っていたら、それは『沖縄風タコライス』のことだったそうでした。

 後で調べてみると、その起源は、アメリカ風タコスライスにあるようでした。

 その沖縄風は、ひき肉を玉ねぎと一緒に炒め、それにレタスやトマトを混ぜてご飯の上に載せて食べるのだそうで、蛸とはまったく関係しない料理のことでした。

 普段は野菜をあまり食べないので、このようにして野菜を食べるのだそうで、子供にも人気のメニューだとのことでした。
 
 そうですか、沖縄風タコライスのことは知りませんでした。今度国東に来られたら、大分風タコライス、すなわち蛸飯をごちそうします。

 これは美味しいですよと答えておきましたが、このエピソードにも沖縄の野菜事情が現れていますね」

 
 こうして、K教授との野菜談義は、ますます進展し、その話題は、野菜から食物一般、沖縄のお菓子の問題にも広がっていきました。

 そして最後は、食生活や健康の問題にも及び、予定の3時間はあっという間に過ぎてしまいました。

 まことにおもしろく、お互いに、ゆかいな一時でした(つづく)。

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                        沖縄恩納村にある万座毛