これは、私と相棒の回想記です。

 しばらく中断していましたので、今号より復活させました。

 時は2045年、年老いた夫婦の会話が続いていましたが、それが途中で途切れていたようでした。
 
 それは、春の陽の温かさのあまり、ここちよい転寝を始めていたからでした。

 そして、また、しばらくの時が過ぎたようでした。

 「しばらく、気持ちよさそうに眠っておられましたね」

 「春の陽を浴びながら、ついつい転寝をしてしまったようだ。

 このプライムタイム(椅子の商品名)に座ると、すぐに眠たくなるからふしぎだね。

 これは、まるで魔法の椅子だよ(おかげで、この連載も寝たままになった?)」

 
「その椅子とも長い付き合いですね」

 「そうだよね。孫と一緒に並んで座ってみたいというのが、この椅子を選んだ理由だった。

 その孫の『しらたまちゃん』も、今では大学院生だから、時が進むのは本当に速いよ」
 

 「よく勉強しているようですね」

 
「幼いころに、トランプや将棋を教えたのがよかったようだね。

 それから、父親が日曜大工で作った屋内滑り台、あの上り下りで脳を刺激したのが、さらによかった。

 ところで、居眠りをする前は、何を話していたのだっけ?」

 
「あれですよ。たしか、テレビで全国放送された水産関係の取組でしょう」

 「そうだ、あれは、今思い出しても、すごい話だったね。たしか、夏の暑いころだったと思うが・・・、いつ頃だったかね?」

 「忘れたのですか。たしか2017年ですよ。現場を視察して、ものすごいことが起きたと、仰られていましたよ」

 「そうだった。思い出したよ。あれは、奇跡に近いことが起きたと思ったよ。

 とにかく、10倍以上の密殖でも上手くいったのだから、世間では、これを神業(かみわざ)というのだろうね」


 「どういうことですか。その神業とは?」

 「海の生き物を養殖する場合には、1㎡あたり何匹という、適性の規模があるのだけど、その10倍以上を、狭いところに入れて育てたということだよ」


 「そしたら、たくさん死んでしまうでしょう。それぐらいのことは私でもわかります。それが10倍以上ですって?信じられない!」

 「これは、『賭け』そのものだったね。しかもその前の年の2016年の夏は、異常高温で全部死んでしまったそうだから、この方の執念は凄まじかったね」

 「執念だけでは、物事は解決しませんよ。それにしても、よくそんな博打のような仕事を引き受けましたね。相変わらず人がいいのですね」

 「それをいったらお終いよ。最初は、それをよく理解していなかったから乗っかれた話かもしれないね」

 「違いますよ。それを聞いていたら、ますますおもしろがったのではないですか」

 「そうかもしれない。それにしても、密植度が通常の10倍を超えていたことは、まるで知らなかった。起死回生とは、このようなことをいうのだろうね。

 それに、じつは、この話には、もう一つ『すごい』ことが起きていたんだよ。

 この水産生物は低温に弱いことから、それを年を越して夏まで養殖しようとすると、ひどいときには、その60%が、そして、よいときでも45%が死んでいたんだよ。

 しかも、それは、1㎡あたりにおいて適切な数を入れた場合のことであり、それが、今回は、その適数の10倍以上という無茶苦茶な数だから、従来通りだとすると、その生き残り率は2、3割以下にしかならないと予想されていたんだと思うよ。

 ところが、マイクロバブルが、この難関を突破し、2017年4月のサンプル試験では、それが7割強という数字が出てきて、ご本人も驚いたというわけだよ。

 これは、ご本人や我々を大いに励ます数字になったね。

 とにかく、これはとんでもないことが起こり始めていると思って、早速、K1さんに報告したら、とても喜んでいたよ」


 
「あの方は、こういう話が好きだから、とてもよかったですね。それにしても、その夏は、とてもおもしろい夏になりましたね」

 「そうだよ。小さな600㎡の池から始まり、その次には同じサイズのもう一つの池に拡大、そしてこれらの10倍以上もある大きな池が5つもあったけど、こちらでも上手くいくようになって、かつての水産の一大拠点が復活することになったね。

 あの『博打のような賭け』がなかった、こうはなっていなかっただろうね。

 もちろん、本当はマイクロバブルの優れた技術のおかげなんだけど・・・」

 
(つづく)。
tutuji0426
                     養殖池の畔に咲いていたツツジ