それでは、マイクロバブルの9ヘルツ振動について、やや詳しく分け入ることにしましょう。

 まず、以前に可視化されたマイクロバブルの収縮過程を示しましょう。

 この場合、これらの画像のサンプリング間隔は0.1秒ですので、この結果からは9ヘルツ振動を見出すことができませんでした。

 これより明らかなことは、比較的短期間において、マイクロバブルが、たしかに収縮していることです。

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                   マイクロバブルの収縮過程(サンプリング時間0.1秒)
 
 この場合、マイクロバブルは影として可視化されています(「シャドウグラフ」とも呼ばれています)。

 右から左へ、見やすく並べられていますが、実際は、マイクロバブルは上昇しながら収縮しています。

 右端のマイクロバブルの直径は20㎛であり、これを起点にして、左へ向かうほど時間が経過し、それがほぼ消えて無くなるまでに約6.8秒と、比較的短期間において収縮過程が進行し、終了していることが注目されます。

 ところで先ほどは、この図から、収縮と膨張を繰り返す、すなわち振動現象を呈しているということを見出すことはできなかったと述べていました。

 しかし、それをよく観察すると、あたかも振動現象が起きているのではないか、という片鱗をうかがうこともできるようです。

 ヒトの目とは、それだけ微妙なものに対しては、その気になって見てしまうと、それらしく見えてしまうという不確かさを有しています。

 なかには、そのことを嫌う学者もいますので、いかに科学的証明を徹底して行うのかがより重要になります。

 そこで、マイクロバブルが「9ヘルツ振動」を行っていることを示すデータを、次に示すことにしましょう。

 これは、高性能のマイクロスコープを用いてマイクロバブルが収縮する過程を動画撮影した結果から、その直径を計測し、単位時間当たりの直径差(縦軸、Δd)が示されています。

 横軸は、経過時間です。

 この場合、マイクロバブルが収縮した場合には、Δdが正になり、反対に膨張しますと、それは負の値として示されています。
 
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 この正の山から負の谷へと直径差が変動していることから、マイクロバブルの振動が起こていることが明らかです。

 この周期(山と次の山までの時間、あるいは谷と次の谷まででもよい)を計測し、それを振動数に換算することで「9ヘルツ振動」の存在が明らかになりました。

 しかも、この振動の挙動をよく観察すると、収縮と膨張に要する時間が2対1の比率になっていることも見出されました。

 この動きを解りやすく説明しましょう。

 ある時間のマイクロバブルの直径をd1とし、次の時間におけるマイクロバブルの直径はd2とします。

 このd1とd2の間の時間をΔtとします。

 マイクロバブルが収縮する場合には、d1-d2>0、膨張する場合はd1-d2<0となります。

 その次のマイクロバブルの直径をd3とします。

 マイクロバブルがd1からd3に至るには2Δtかかります。

 これらを踏まえて、上図の収縮と膨張の様子をよく観察しますと、収縮には2Δt、反対に膨張には1Δtの時間を要しています。

 これを1、2、3の掛け声に例えますと、1、2で収縮し、3で急に膨張すると言い表すこともできます。

 収縮はゆっくりと、そして膨張は急に起こるといってもよいでしょう。

 これらの挙動から、マイクロバブルは常時収縮過程において内部の圧力と温度を高め、その次には、そのエネルギーを膨張によって発散させていることが推察されます。

 収縮で内部エネルギーを増加させ、膨張で、それを発散させる、これは真に興味深い現象といえます。

 なお、マイクロバブルの振動が9ヘルツであることは、すべての計測データを平均することによって得られた値ですので、そのことも付記しておきます。

 私どもが開発した超高速旋回式マイクロバブル装置で発生したマイクロバブルは、その発生直後から9ヘルツ振動を起こしながら、その内部でエネルギーを増加させ、その時々においては膨張して、そのエネルギーの一部を発散させます。

 しかし、全体としては収縮を持続して生起させ、最終的にはナノサイズの気泡へと変化し、見えなくなってしまいます(目視や通状の可視化装置では)。

 この9ヘルツ振動現象の発見は、次の、さらに魅力的な新たな世界に分け入ることになりました。

 それは、この9ヘルツ振動が何をもたらしたのか?

 それに伴って、マイクロバブル内の圧力や温度で示される内部エネルギーは、どのように変化していくのか?


 これらの究明課題を踏まえますと、マイクロバブルは、自分で内部エネルギーを造り出しているのではないか、このような仮説も成り立つことになります。

 次回は、その新たな世界へ、みなさまを導きながら、より深く分け入っていくことにしましょう(つづく)。