「あれから、ずいぶんといろいろなことがありましたね」

 「そうだね。まことにめまぐるしく、あっという間だったよ。まさに、『光陰矢の如し』とは、このことかだったよ」

 
「そのなかで何が、印象深く残っていますか?」

 「いろいろあったけど、なんといっても最初に思い浮かぶのは、地元での水産養殖の再生が上手くいったことだね」

 愛用のロッキングチェアに座って、私は、約20年前の、その記憶をたどっていきました。

 この水産養殖事業の改善は、地元国東から近いところで開始されました。
 

 「私の場合は、何か、おもしろいことが起こるときは、必ずといってよいほど、まずは先に、水産分野での狼煙が上がりました。

 広島湾のカキ、噴火湾のホタテ、英虞湾のアコヤガイ、そして大船渡や気仙沼でのカキ、ホタテの時もそうでした。

 その度に、海水マイクロバブルのすばらしさを深く認識させられました。

 いわば、そのバブルが、それらの水産生物のみならず、私をも救ってくれたのではないかと思ってきました。

 今から振り返れば、その始まりは1998年でしたので約50年、半世紀の歳月が経ちました。

 それ以来、マイクロバブルの方は活躍していますが、漁民のみなさんにとっては、漁場の悪化を食い止めることができずに、相変わらずの苦戦を強いられていて大変ですね」

 
「そうですね。しかし、地元での取り組みは、水産業界に明るい希望を与えたのではありませんか?」

 「たしかに、そうだったね。最初は、小さな池での養殖から始まり、そこから徐々に広がり、その成果が、最も盛んな近くの島にまで広がり、今では、あの日本経済のバブルの時代までの、かなりよかったころに戻り始めているようだから、これはこれで、とてもすばらしいことですよ」

 「この前も、日本一の水揚げが得られるようになったという、うれしいテレビ報道がありましたよ。陰ながら、それに貢献できたことはすごいことではないのですか?」

 「そうかもしれないね。その地域は、ますます衰退し、そこからの脱出、そして再生の必要性が誰の目にも明らかになっているからね。それも、『二度と起こしてはならない』といわれていた、あの『3.11事故』と同じものが、今から15年前に起き、日本海は片肺状態になってしまったからだよ」


 「それ以来、日本人は魚を食べることを渋るようになりました。この近くでも、完全に老朽化してしまった原発が未だに細々と動いていますが、私は、薄氷を踏む思いで、そのニュース報道を見ています」

 「そうだろうね。ここの魚は、まだ昔のままだけど、汚染された地域のみなさんは大変深刻な状況に落とされていますね。

 そういえば、もう記憶にも残っていないようだが、どこかで、『原発事故による汚染は完全にブロックされています』と大見栄を切られた方もいましたが、その方々の集団は、もう風前の灯のようになってしまいました。やはり、その雲行きが怪しくなったきっかけは、その事故対応の問題でしたね。」


 「それはともかく、その地元での水産養殖業の復興は、どのようにして可能になったのですか?」

 「そのことは、今でもしっかりよく覚えていますよ。

 じつは、その前年の2015年の夏に異変が起こりました。それは梅雨の時期に約10日間、一度も太陽が顔を出さないまま雨が降り続けたことでした。

 そして、その梅雨明けから2週間、今度は雨が降らず異常高温が続くというダブルの天候不順が起きたことでした。

 これで、その水産生物はほぼ全滅、私も育てていたう野菜や植物が成長しなくなり、困り果てていました。

 これで、その方は営業不振に陥り、雇っていた従業員を、泣く泣く、みな辞めていただくしかなかったそうでした。

 翌年、再起をかけて、かれは、私のところに相談に来られました。

 危うく、無茶苦茶に高価で、わずか1機しかないマイクロバブル装置を買わされそうになったのですが、それを回避することができたので、かれはとてもうれしそうでした。

 その再起の願いに促され、私どもも最高に知恵を発揮させた専用装置を製作し、その試運転を行ったときに、思わぬ現象に遭遇することになりました」

 それは、一種の池の浄化作用といえるものでしたが、これを目に前にして、『これは、相当に上手くいくかもしれない』と密かに思いました。

 じつは、この現象に出会ったのは初めてのことであり、これが、その再生の第一ステップとなりました。

 このように思わぬよいことが起こると、その事業は、とんとんと前に進んでいくことが多いようです。

 じつは、それが上手くいった理由の第一は、それだけ、かれが必死で、何とかしようと、私どもの意見や提案を真正面から受け止めたことにありました。

 それは、かれの本気が私どもの本気を呼び起こしたことでもあったのでした
(つづく)。
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                     夕陽を受けて(ワイヤープランツ)