いつものように、そろそろ帰りの時間を、かれが気にし始めたころでした。
どうやら、かれは、私との勉強会を終えた後に、U市で講演を行う予定であったそうでした。
にもかかわらず、そのかれが、意を決したように、次のように尋ねてきました。
「先生が、今、一番やりたいことは何ですか?」
「私が一番やりたいこと? それは、退職後の私の念願であり、ここにきて準備してきたことでもありました。
じつは、何人かのスタッフを教育し、育てて自前のマイクロバブルに関するしっかりした研究所を創ることをめざしてきました」
「なるほど、それはよい考えですね。そこでどんなことを研究したいのですか」
「近頃は、マイクロバブル技術の市場は、2030年には13兆円にみなると予測されるようになりました。
これを本当に実現するには、1つの分野において、少なくとも数百億円規模のイノベーションを連続的にいくつも起こしていく必要があります」
「いきなり、13兆円の市場を創生することは難しいですね。仰る通りです」
「最初は小さくいてもよいから、その核形成を可能にするいくつもの先行事例づくりが重要です。
この核づくりを成し遂げないかぎり、それをイノベーションへと連続的に発展させていくことはできません。
今の時代は、それが見えにくく、そして、立派に孵化(ふか)させることがより難しくなっています」
「それは、なぜでしょうか?」
「それは、日本発の、しっかりしたオリジナル技術を生み出すことが、なかなか難しいことにあります。
その核の種を、きちんと時間をかけて育て、しっかり水と栄養を施してやる期間が必要になります。
その間に、優れた、そして洗練された技術戦略を構築し、その実践を積み上げていくことが重要です。
これは、いわば『土台づくり』ということもでき、それが広ければ広いほど、そして多種多様であればあるほど、その発展には時間と尽力が必要になります」
「なるほど、そのために、本格的な研究所づくりが必要というわけですか!」
「仰る通りです。最初は、小さくてもよいから、可能な範囲で、それを立ち上げ、みなさんに、つまり社会的にオープンにして、その成果を、逐次明らかにしていくことが大切です」
「その通りですが、それを実現していくことは、そう簡単なことではありませんね」
「おそらく、そうでしょう。
そのためには、幾重にも洗練された、そして格別の『知恵と工夫』を生み出すことが必要になります。
マイクロバブル技術を創生してから、今年で20年余が経過していますが、その知恵と工夫は、そのような長い時間オーダーで貫かれたものである必要があるように思われます」
「なるほど、時代を貫く『知恵と工夫』ですか。そうであれば、ますます、その研究所の役割が重要になりますね」
「大局を見据えながら、着実に、その一歩を踏み出し、それを幾重にも積み重ねていくことが何よりも重要です。
私の場合、その第一歩が、この国東に定着することであり、その第二歩が、どん名に小さくてもよいから、その研究所を自前で立ち上げることでした。
幸いにも、いくつかの事情が重なって、その立ち上げを来年6月までに行うことになりました」
「それはすばらしいことですね」
「これは、ある意味で『夢を追う』ような試みですので、その可能性や勢いがわずかに出てきたときに進めることがよいのかもしれませんね」
「それは、たしかに、すばらしくてよいことですが、それを夢だけで終わらしてはいけない不十分なところもあるのではないでしょうか?」
「といいますと?」
「私は、その研究所の活動を本格的に進めるには、しっかりした支援者が必要ではないかと思いますが、そのことについては、どう思われますか?」
「それはありがたいことですね。これまでにも、大小のいくつかの提案がありましたが、それは実現せず、結局、他人任せではなく、何事も自前で行うことの大切さを学んできました。
しかし、よき理解者と支援者を得て、その活動を臨機応変に、そして質的に高めていくことも非常に重要だと思っています」
「そうでしたら、先生に会っていただく方として、私はS氏かH氏がよいのではないかと思います。
今の段階では、これらの方々に、すぐにコンタクトできるかどうかは不明です。
もしかして、できないかもしれません。とにかく、それを追求してみようかと思っていますが、それでもよいでしょうか?」
「もちろん、それで結構です。その『夢』が実現し、それをどう叶うようにするか、その方々と語り合うことができるとよいですね」
そのお二人は、とても著名な方でした。
しかし、ここでタイムアップとなりました。
すでに、SさんがU市での講演の時間に間に合うとすればぎりぎりの時刻となっていました。
「先生、これからU市に向かいます。また時間を作ってきますので、よろしくお願いいたします。
2日の研究会には参加したいと思っています」
かれは、少しも慌てた様子はなく、そのまま、自動車に乗って、次の会場に向かっていきました。
今回も、素敵な議論ができた勉強会となり、さわやかな余韻が残りました(つづく)。
どうやら、かれは、私との勉強会を終えた後に、U市で講演を行う予定であったそうでした。
にもかかわらず、そのかれが、意を決したように、次のように尋ねてきました。
「先生が、今、一番やりたいことは何ですか?」
「私が一番やりたいこと? それは、退職後の私の念願であり、ここにきて準備してきたことでもありました。
じつは、何人かのスタッフを教育し、育てて自前のマイクロバブルに関するしっかりした研究所を創ることをめざしてきました」
「なるほど、それはよい考えですね。そこでどんなことを研究したいのですか」
「近頃は、マイクロバブル技術の市場は、2030年には13兆円にみなると予測されるようになりました。
これを本当に実現するには、1つの分野において、少なくとも数百億円規模のイノベーションを連続的にいくつも起こしていく必要があります」
「いきなり、13兆円の市場を創生することは難しいですね。仰る通りです」
「最初は小さくいてもよいから、その核形成を可能にするいくつもの先行事例づくりが重要です。
この核づくりを成し遂げないかぎり、それをイノベーションへと連続的に発展させていくことはできません。
今の時代は、それが見えにくく、そして、立派に孵化(ふか)させることがより難しくなっています」
「それは、なぜでしょうか?」
「それは、日本発の、しっかりしたオリジナル技術を生み出すことが、なかなか難しいことにあります。
その核の種を、きちんと時間をかけて育て、しっかり水と栄養を施してやる期間が必要になります。
その間に、優れた、そして洗練された技術戦略を構築し、その実践を積み上げていくことが重要です。
これは、いわば『土台づくり』ということもでき、それが広ければ広いほど、そして多種多様であればあるほど、その発展には時間と尽力が必要になります」
「なるほど、そのために、本格的な研究所づくりが必要というわけですか!」
「仰る通りです。最初は、小さくてもよいから、可能な範囲で、それを立ち上げ、みなさんに、つまり社会的にオープンにして、その成果を、逐次明らかにしていくことが大切です」
「その通りですが、それを実現していくことは、そう簡単なことではありませんね」
「おそらく、そうでしょう。
そのためには、幾重にも洗練された、そして格別の『知恵と工夫』を生み出すことが必要になります。
マイクロバブル技術を創生してから、今年で20年余が経過していますが、その知恵と工夫は、そのような長い時間オーダーで貫かれたものである必要があるように思われます」
「なるほど、時代を貫く『知恵と工夫』ですか。そうであれば、ますます、その研究所の役割が重要になりますね」
「大局を見据えながら、着実に、その一歩を踏み出し、それを幾重にも積み重ねていくことが何よりも重要です。
私の場合、その第一歩が、この国東に定着することであり、その第二歩が、どん名に小さくてもよいから、その研究所を自前で立ち上げることでした。
幸いにも、いくつかの事情が重なって、その立ち上げを来年6月までに行うことになりました」
「それはすばらしいことですね」
「これは、ある意味で『夢を追う』ような試みですので、その可能性や勢いがわずかに出てきたときに進めることがよいのかもしれませんね」
「それは、たしかに、すばらしくてよいことですが、それを夢だけで終わらしてはいけない不十分なところもあるのではないでしょうか?」
「といいますと?」
「私は、その研究所の活動を本格的に進めるには、しっかりした支援者が必要ではないかと思いますが、そのことについては、どう思われますか?」
「それはありがたいことですね。これまでにも、大小のいくつかの提案がありましたが、それは実現せず、結局、他人任せではなく、何事も自前で行うことの大切さを学んできました。
しかし、よき理解者と支援者を得て、その活動を臨機応変に、そして質的に高めていくことも非常に重要だと思っています」
「そうでしたら、先生に会っていただく方として、私はS氏かH氏がよいのではないかと思います。
今の段階では、これらの方々に、すぐにコンタクトできるかどうかは不明です。
もしかして、できないかもしれません。とにかく、それを追求してみようかと思っていますが、それでもよいでしょうか?」
「もちろん、それで結構です。その『夢』が実現し、それをどう叶うようにするか、その方々と語り合うことができるとよいですね」
そのお二人は、とても著名な方でした。
しかし、ここでタイムアップとなりました。
すでに、SさんがU市での講演の時間に間に合うとすればぎりぎりの時刻となっていました。
「先生、これからU市に向かいます。また時間を作ってきますので、よろしくお願いいたします。
2日の研究会には参加したいと思っています」
かれは、少しも慌てた様子はなく、そのまま、自動車に乗って、次の会場に向かっていきました。
今回も、素敵な議論ができた勉強会となり、さわやかな余韻が残りました(つづく)。
玄関先のキンモクセイがよい香りを放っています。
コメント