新たな注目すべき現象、それは、池の水が薄茶色を呈していることでした。

 「たしかに、水の色が変わってきましたね」

 「もっと色が濃かったのですが、2日前の雨で薄くなってしまいました」

 そのオーナーは、とてもうれしそうな顔をして、こう報告してきました。

 これは、エビ養殖業者のみなさんが、『ブラウン』という言葉で表現している水の色のことでした。

 そして、この薄茶化は、そこに珪藻類が新たに発生してきたことを意味していました。

 この珪藻類が、なぜ重要かといいますと、それが餌になり、その品質を向上させるのに重要な役割を果たすからでした。


 「これは、良い傾向ですね。この水を持って帰って調べてみることにしましょう」

 「ありがとうございます。それを知りたいと思っていました」

 「これは、マイクロバブルによって水質に重要な変化があったからだと思います。この水の変化が、そのことを証明しています」

 「といいますと?」

 「まず、底面に溜まっていたバイオフィルム層が剥離して大量に浮上してきました。これは、嫌気性微生物の住処であり、酸素が欠乏したそうでした。これにマイクロバブルが付着して夥しい数のの浮上が起こりました」

 「なるほど・・・」

 「これらをすくって除去することで、溶存酸素吸収層の排除が可能になりました。これによって、水中内の溶存酸素濃度の上昇が可能になったのだと思います。これは、マイクロバブルでないとできないスゴ技ということができます」

 「スゴ技ですか?」

 「その通りです。この溶存酸素を奪う要素がなくなりましたので、池の水の溶存酸素濃度が向上したのだと思います。

 今度その濃度を測ることにしましょう。また、気温が下がって、酸素が溶けやすくなったのも幸いしたのだと思います」


 「最近になって、夜は冷え込むようになりました」

 「珪藻類が繁殖するには、栄養と光、そして溶存酸素の3つが必要になります。

 栄養は、もともと海水のなかに含まれています。また、餌からも染み出してきます。

 光は、太陽から注がれますので、これはマイクロバブル運転前後で大きな変化はありません。

 残るは、溶存酸素濃度ですので、これが重要な変化をもたらしたのだと思います」


 「なるほど、汚濁物除去、溶存酸素濃度の向上、珪藻の発生と増加、3拍子揃っていますね」

 「水面に、やや大きめの泡の塊が無数に浮かんでいるのも、そのことを示唆させる現象ではないかと思っています。

 十分にマイクロバブルが水中に溶け込んで、それが飽和したことで泡の塊の形成がなされるようになったのだと推察しています。

 この変化が、水産生物の成長に結びついているような気がします」

 こうして、順調な滑り出しを得ましたので、内心ほっとして、「これは期待できそうだ」と思うことができました。

 このオーナとは、今後の養殖計画に関する意見交換を行い、次の視察を行う期日を今月末にすることを決めました。

 「あの養殖は、かなり上手くいっていますね。よい時は、きっとこのような状態なのでしょうね」

 「その通りです。好循環サイクルに入って、ますますよくなることが期待できますね」

 
「社長さんも、来年夏の出荷を楽しみにしているようで、喜んでおられましたね」

 「そうですね。これから気温が下がって成長が鈍化していきますが、逆にマイクロバブルの方は、気温が下がるにつれてよく出るようになりますので、それがどのような作用効果をもたらすかに注目しています。

 これは、単純な問題ではありませんよ」

 「そうですか、それにしても、このままの状態で成長していくと、あの社長さんにとっては、とても良いことが起こることになりますね」

 「そうなるとよいですね。その暁には、その水産生物を食べさせていただくことになっていますので、それを楽しみにしています」
 
 車は、国東の森の中を抜けて、そろそろ次の視察場所である巨大な植物工場に着く頃でした(つづく)。
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スズキ