なぜ、水産分野において、マイクロバブルを用いた研究事例が少ないのか、これは、水産分野におけるマイクロバブル技術の動向を研究されている、かれにとって、ある意味では当然のように湧いてきたことでした。

 この疑問に対して、少しは私の事例が役立つかもしれないと思って、なぜ、広島のカキ養殖改善に取り組んだかの話をすることにしました。

 時は遡り、1998年の11月のことでした。広島湾や江田島湾に、新種の赤潮が大量発生し、カキが全滅するという大変なことが起こりました。

 その被害総額は45億円、しかも、その赤潮の主は、「ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ」と呼ばれる南方から持ち込まれた新種のプランクトンでした。

 水産試験所やカキ漁師たちは、この新種のプランクトンへの対応が解らないままで、目の前でカキが大量斃死することになってしまいました。

 翌年も、この被害が出るのではないかということで、広島中が、その心配をしていた矢先、広島に住む大学時代の同級生から電話がかかってきました。
 
 それは、前年に被害を受けたカキ養殖を救う話で、「何とかならないか、お前だったら何かできるであろう」という、乱暴な要請でした。

 しかし、当時の私は、カキを食べたことはあっても、それをどう育てるかについてはまったくの素人でしたので、その要請を断るしかないと思って、その提案に乗っかることはできないと言い続けていました。

 しかし、かれも、必死になって、「今年やられたら、広島のカキ養殖は全滅する」とまで言い始めていました。

 そこで、私も、やや、その気になり、山口県の水産試験所の方を訪ね、そのプランクトンのことについて尋ねてみました。

 さすがに水産学者だけあって、そのプランクトンについては詳しくかつ丁寧に教えていただきました。

 そして、別れ際に、「私は、小さな泡を発生させる装置を開発したのですが、これで何とかできますかね」と尋ねたら、その方の表情ががらりと変わり、次のように一方的にまくしたてられました。

 「あの広い海で、何ができるというのですか。その泡で、ヘテロカプさを殺せるのですか。いったい、何を考えているのですか」

 これを「けんもほろろ」というのでしょうね。

 まことに悔しい思いをしながら、そこを出たときのことを思い出します。

 M君も、これには興味を抱かれたようで、「それでどうなったのですか?」といいたそうな表情を浮かべていました。

 「人には、こういわれれると、そのまま引っ込んでしまうタイプと、逆に、ますますやる気になるタイプの2つがあります。私は、その後者の方でした」

 無謀にも、私は、その準備をし始め、現地の視察を行って、広島のカキ用の装置の試作を恥豆ました。

 ところが、ここで、また大きな失敗をすることになり、その装置を丸ごと作り変えることになりました。

 そして、このダメになった分の費用については私が被るしかなく、泣くような目に会いました。

 さらに、今度は、導入された装置においては、その1/5しか支払われず、これにもほとほと困ってしまいました。

 しかし、一方で、マイクロバブルの作用効果は素晴らしく、次々に難局を乗り越えることができ、その度に、私自身がマイクロバブルのすごさを深く認識するようになりました。

 その最初の出来事は、マイクロバブルによってカキが大きく開口することでした。

 これは、カキが生物的に無機物であるマイクロバブルに、何らかの反応をしている証拠でした。

 次に、周囲の筏のカキがほとんど死んでいるのに、マイクロバブルを与えたカキは生きているという好対照の結果に出会い、マイクロバブルが死にに強いことを理解することができました。

 そして第3は、マイクロバブルによってカキが急成長を遂げるようになることを目のあたりにしたことでした。
 
 これらのカキの変化を観察し、

「ここには何か重要なものがある。カキが、それを示しているのではないか」

と思うようになりました。

 ここまで話すと、かれはますます身を乗り出して聞き入るようになりました。

「私は、水産学者ではなく、私の専門は河川工学でした。

 その専門外が、カキの養殖に取り組めるようになったのは、カキの養殖業者に、その知識と実践を学ぶことができたからです。

 その意味で、生きた現場から学ぶことが大切であり、そのような姿勢で立ち向かうことができるかどうか、ここに分かれ目があるのではないでしょうか?」

「こう考えると、私の専門は何か、というようなことをあまり考える必要はありませんね。

 マイクロバブルを使いこなす研究者があまり多くない理由は、自分の専門の枠を超えて、現場で学ぶ、そのために、幅広い知識を身につけていくことがなかなか難しいからではないかと思います」

 「現場には、宝物が転がっている。マイクロバブルによるカキの生理活性という素晴らしい現象に出会えて、上記の私の借金や損金の問題は、いつのまにか気にするほどのものではないと思うようになりました」
 
 (つづく)。
kakinokaikou

マイクロバブルで開口したカキ(江田島湾産)