昨日、奈良県にある大学生の訪問を受けました。

 現役の4年生の大学生がやってきたのは、こちらに来てからは初めてのことで、私も楽しい対応をさせていただきました。

 約1か月半ぐらい前だったでしょうか、非常に丁寧な訪問依頼のメイルをいただき、そのしっかりした内容に少々吃驚しました。

 それから、次には、その面談の際に、私に尋ねたいことを具体的に示してきて、その質問の内容が優れていたので、さらに吃驚しました。

 おそらく、かれを指導している教員がしっかり、そして洗練した指導をなさっているからでしょう。

 どうやら、かれは、卒業研究を書くために、私へのヒヤリング調査を行う必要があると考えられたようでした。

ーーー そうであれば、私の方も、それにふさわしい対応をしなければならない。可能であれば、この面談が、かれの人生にとって忘れられない出来事になってほしい。

 このように思い、いつのまにか、自然に力を入れて話すようになっていました。

 かれが示した質問のうち、重要な部分を2、3紹介することにしましょう。

 その第1は、マイクロバブル技術が水産分野に導入されて久しいが、なぜそれが発展しないのか。

 かれは水産学科の学生ですから、このような問題意識を持たれたのでしょうか。

 第2の質問は、上記の質問と関連して、水産分野の研究成果やその研究者が、なぜ続々と出てこないのか、より具体的には、私が行った一連の水産養殖の分野における研究の次が、なぜ出てこないのか、に関することでした。

ーーー なるほど、これは的を射ているな!さて、なにから、話していこうか。

 こう思いながら、つい最近の事例がよいと思って、その口火を切ることにしました。

 それはエビの養殖に関することでした。

 発端はO高専のT先生からの紹介で、「エビ養殖について困っているようなので支援をしていただけないか」というものでした。

 いつも親しく交流を行っているT先生からの依頼ですので、すぐに対応することになり、この業者の方を株式会社ナノプラネット研究所の社長が訪ねられ、事情を詳しく聞いていただきました。

 それによれば、すでに、2つのナノバブル関係の企業とコンタクトされていて、それが2つとも不調に終わり、「どうしようかと、困っていた」とのことでした。

 しばらくして、今度は、その当事者が、私どものところに訪ねてこられました。

 その方は、なかなかしっかりしており、なんとか、今のエビ養殖事業を発展させたいとい積極的な姿勢を持っていて、そのために「」何とかマイクロバブル技術を導入したい」という意向を持たれていました。

 また、「経営革新」という国と県の中小企業認定制度を利用され、本格的なマイクロバブル設備の導入を希望されていました。

 「ところで、どんな経緯で、私どものマイクロバブル技術について、お知りになったのですか?」

 こう尋ねると、この間の経緯が詳しく説明されました。

 このなかで、上記の2つの業者についての「事情」も明らかになりました。

 どうやら、インターネット上で、それらの会社があることを知り、コンタクトをとって、現地視察もしていただいて、「ナノバブル」とかいう機械装置の「見積もり」もいただいたとのことでした。

 また、その現地視察の際には、学者の方も同行していたようで、その会社の装置を「1機導入すれば大丈夫である」という、もっともらしいご意見を述べられていたそうでした。

 ところが、そのエビ養殖業者の方は、まず、その見積書を見て吃驚、なんとそれには「1機で500万円」という価格が示されていたそうです。

 また、その装置を実際に見せていただき、「わずか1機だけで、あの広い池の何万尾ものエビを育てることはできないのではないか?」と、内心、心配されていたそうでした。

 素人が考えても簡単に解るような問題について、その学者さんらしい方に、そのように言わしめたことには小さくない問題があるように思われます。

 「ナノバブル」の説明を行い、現地視察を行い、見積書まで出して、積極的に売り込んでいた2つの会社が、次に示した行為は何だったのでしょうか?

 奇妙なことに、そのエビ業者が断る前に、2つとも自分から、「今回は撤退する」と告げてきたそうでした。

 ここで、その大学生に、私の方から、次のように尋ねてみました。

 「なぜ、これらの会社は、最後の最後で撤退宣言をしたのか、理由は解りますか?」

 温厚で賢そうな表情のかれでしたが、「どうしてでしょうか?」と首をかしげていました。

 「ここに、あなたの質問と関係する重要な問題が横たわっています。装置をただ持っているだけでは、何の役にも立ちません。

 それをどう使えばよいかの知恵やノウハウがないと、実際の技術としては成り立たないということなのです」

 「それは、そうでしょうね」

 「そこにかれらがいう『ナノバブル』とかいう技術の未熟性、非洗練性が現れています。

 現場ごとに、そして課題ごとに実践的に乗り越えたことがなければ、失敗するのは目に見えていますので、そのように撤退するしかないのです」


 そこで、私どもは、そのエビ養殖業者に、広島のカキ養殖から始まった一連の水産養殖やエビ養殖に関する事例を詳しく説明しました。

 するとどうでしょう、このエビ養殖業者の表情が明るくなり、笑みを浮かべるまでになりました。

 その際、私どもが行ってきた装置作りについても説明し、その500万円の何分の1かの金額で、何倍もの効果が出る方法を提案しました。

 当然のことながら、これについても大変喜ばれることになりました。

 「この事例に典型的に現れていますが、水産養殖においては、まず、あの広い海や池を相手にする必要がありますので、それらに、どう有効に対応するかが問われることになります。

 次に、対象とする海洋生物が弱っていれば、それを回復させ、元気にして成長させるところまで持っていくようにする必要があります。

 なにせ相手は数が多く、その一つ一つに対して生物的な活性を与えるものが大切になります。

 また、広いとか数が多いという問題点に尻込みすることなく、逆に、それらを利点に変えることができないかと知恵を絞ることが重要なのです」


 こう話し始めると、その大学生の瞳は、どんどん輝きを増していました(つづく)。
tairagi
マイクロバブルで開口したタイラギ(有明海産)