昨年12月13日に、明治大学においてマイクロ・ナノバブル学会の第4回学術総会が開催されました。

 私は、その冒頭で基調講演のひとつをさせていただきました。

 その後、すべての一般講演も拝聴させていただき、マイクロ・ナノバブル研究の現状を理解させていただくことができました。

 そこで、これらを踏まえて、わが国におけるマイクロ・ナノバブル研究に関する私なりの感想を述べさせていただくことにします。

 そこで、前号の記事(同名のタイトル(5))においても指摘させていただいたように、技術には必ず適用目的があり、その技術の優秀性は、その目的を成就できるかどうかにあります。

 この大前提を間違えますと、それは本末を転倒させてしまうことになる場合が起こってしまいます。

 例えば、海洋生物や植物を育てることを目的にするのであれば、それがマイクロバブルやナノバブルによって、いかに実現されるかが問題になります。

 より厳密にいえば、具体的事例としてのカキやレタスに対して、マイクロバブルやナノバブルの活性が、どのように寄与するのかを軸として、その適用における優れた成果が示されることが、まず重要になります。

 そして、次には、その作用メカニズムが究明されることが求められます。

 すなわち、この技術においては、「最初に、マイクロバブル、ナノバブルがありき」、ではないのです。

 先に優れた成果があって、初めて、それがどのようにもたらされたのかが科学的に重要になる、これが技術の生成期においてはよく起こる現象なのです。

 今回の基調講演を準備する過程で、その内容をどうするかで、さまざな検討を行わせていただきました。

 それがが、日本全体において「マイクロバブル技術の基本が必ずしも明確になっていないのではないか」という危惧を抱いていましたので、「そのことに焦点を当てて講演内容を構築しよう」という思いがありました。

 そして、その思いは、ほぼ間違っていなかったということが、本学会を終えた時に真っ先に浮かんできた感想でした。

 ここで、とても大切なことですから、その基本を改めて、以下に示しておきましょう。

 「マイクロバブルの物理・化学的特性を正しく理解して、生物活性などの優れた機能性を最高度に引き出すことを可能にする」


 これは、マイクロバブルのみならず、マイクロナノバブル、ナノバブルについても適合する基本概念であり、この究明を発展的に遂行していくことが、なによりも重要であると思っています。

 さて、この基本が理解、そして確立されていないと何が起こるのでしょうか。

 マイクロバブルであれば、みな効用が同じ、あるいは、同じ特異な現象が発生し、それに基づく効果が期待されるという傾向が生まれてきます。

 その具体例を、いくつか紹介させていただきましょう。

 その第1は、マイクロバブルによって形成される「高温高圧場」の問題です。

 これは、長い間の謎として存在してきた重要問題でした。

 まず、このアプローチとしては、超音波の世界で起こっていることを、そのまま持ち込んでくることがありました。

 超音波振動によって、その気泡が加圧されて光を放ち、その際に瞬間的に高温高圧になる現象が観察されていました。

 その高温高圧場は、数千度、数千気圧といわれ、時には、1万度にも達するといわれていました。

 しかし、超音波を照射された液体そのものが、その高温によって、すぐにお湯になり、蒸発することは起こりません。

 この高温高圧現象の基礎となっているのが、ラプラス・ヤングの式であり、簡単にいえば表面張力が圧力に比例するという考えで成立っています。

 これに基づいて、マイクロバブルが収縮すれば、その表面張力が大きくなって、高圧になっていくという想像がなされ、マイクロバブルにおいても、同様の高温高圧場が形成されるという推察がなされました。

 果たして、この想像は正しいのでしょうか?

 周知のように、超音波とは、一般に20kヘルツを超える振動数を有する音波のことであり、かなりの高周波であることに特徴があります。

 これに対し、マイクロバブルの方はどうでしょうか。

 その発生から消滅までの寿命は、たかだか数十秒です。

 これを超音波と比較しましょう。

 20kヘルツの周波数を有する音波の周期は、1/20000秒、すなわち、0.00005秒になります。

 仮に、マイクロバブルの寿命を50秒としますと、マイクロバブルの周期は、超音波と比較して100万倍の長さを有することになります。

 これはだれが考えても、100万倍も違うものを、同じとすることはできません。

 ところが、マイクロバブルのなかでも、超音波と同じように、数千度、数千気圧になるという見解が、一部で、まことしやかに流布されていました。

 この見解の基を辿れば、上記のラプラス・ヤングの式にあるようで、気泡が小さくなれば、その表面張力がどこまでも増大して、数千気圧なるというのです。

 また、ある学者は、気泡の直径が1ナノメートルになると、その温度は1万度になるという主張までなされていたようです。

 数千度も、1万度も想像の産物でしかありません。

 たとえば、フライパンの上に水滴を垂らしてみると明らかですが、、その高温になると液体の表面張力は低下し、さらに高温になると表面を維持できなくなることを、誰もが観察することができます。

 そして、これらの見解における重大な問題は、マイクロバブルを動的に変化していく現象という認識を持たずに、静的なものとして、ラプラス・ヤングの式を適用しようとしたことにあったようです。

 マイクロバブルは収縮して、常に変化を遂げていく、この観点からの詳しい観察力が不足していたことが、超音波現象のマイクロバブルへの「機械的適用」という状況を生み出したのではないかと思います(つづく)。
asahiwo matu
朝陽を受けた松葉