前回の記事において示された酒用大型マイクロバブル発生装置の導入がなされて半年が過ぎた頃から、いくつかの朗報が寄せられるようになりました。
その第1は、M酒造の大吟醸酒「錦」が、国内において最も権威のある「全国酒類コンクール」において第1位の栄冠を得たことでした。
すでに、M酒造は、このコンクールに何度か挑戦をしていましたが、この第1位を勝ち取るまでには至っていませんでした。
いわば、そこに壁があり、結果的に、マイクロバブルが、その壁を突破(ブレイクスルー)したのでした。
第2は、それから4カ月後に、世界的な食品コンテストである「モンドセレクション」において「最高金賞」の栄誉に輝いたことでした。M酒造にとっては、この最高金賞も初であり、それ以前は、その下のクラスの「金賞」止まりでした。
この国内外における最高の賞における栄冠の獲得は、H杜氏を励まし、よりすばらしい酒を創製しようという探究心に火を点けたようでした。
「先生、正直にいいますと、私は、これまでに酒造りのすべてをやり尽くしてきたと思って、情熱を失いかけていました。ところが、このマイクロバブルの装置によって、今度は逆に面白くてしかたがないと思うようになりました」
「そうですか、それは良かったですね!マイクロバブルもきっと喜んでいますによ!」
生まれ変わるとは、このような時のことをいうのでしょう。H杜氏が、こういったときの目の輝きを今でも思い出すことができます。
ところで、全国酒類コンクールにおいて第1位となったことと、それ以前の第2位までとでは、そこにどのような違いがあるのでしょうか。
ここに、重要な問題が横たわっていました。そのことが、審査員から寄せられたコメントに明らかになっていました。
この審査においては、「酸味」、「コク」、「キレ」、「まろやか」の4つの指標に基づいて、それぞれ審査と評価がなされます。
「酸味」とは、フコク酸、リンゴ酸、乳酸など、酒に含まれる「酸の総合的な味」のことをいいます。
次の「コク」は、日本酒が持つ「各種味の総和」を意味しています。
三番目の「キレ」は、飲んだ後の酒の味が、口 の中で、どれだけ早く消えてなくなるかの指標のことをいいます。
酒の専門家によれば、この「キレ」の味を出すことが一番難しく、杜氏の腕が試される最重要項目の指標だといわれています。
さらに、四番目の「まろやか」は、酒の「甘さ」、「辛さ」のうち、前者に関係付けて用いられる指標のようです。
これらの4つの指標に基づけば、これまでの日本酒は、「酸味」、「コク」、「キレ」の3つがより反映されたグループと、「まろやか」を中心とするグループに二分されていました。
私の判断によれば、前者の代表格が、「八海山」、「久保田」(新潟)、「土佐鶴」(高知)であり、後者の代表格が「越乃寒梅」などではないかと思われます。
ここで重要なことは、前3者の味を重視すれば、4つ目が成り立たず、逆に、最後者を重視すれば、前3者に不足が起こる、これが既往の酒の特徴とされていました。
ところが、「錦」は、その常識を大きく覆すことをしでかしたのでした。その酒類コンクールの「審査員講評」によれば、「酸味」、「コク」、「キレ」、「まろやか」という4つの指標のすべてにおいて優れているという、「史上初の評価」を得るに至ったのでした。
じつは、この快挙は小さくない出来事であり、そのことが、その後においても続くことで、事の重大性がますます明らかになっていくことになりました(つづく)。

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