5.新鮮でうまい料理を食せる

備前の七不思議の5番目は、料理に関することです。

もともと、備前焼は、普通の生活に用いられてきた陶器であり、素朴な土の色で表現された地味なものでした。

そのため、その上に食物が載せられると、色合いや地味さで、かえって食物が引き立つことから、それがおいしく見えるという要素があって、このようにいわれるようになったという説もあるようです。

また、備前焼の表面は、他の焼き物と比較してごつごつしていて、小さな凹凸が多数あることから、「食物が皿肌に密着しないので取りやすく、水分の蒸発力が弱いので乾燥を防ぎ、新鮮さを保つ」という解説もなされています。

この「水分の蒸発力が弱い」とは、表面の凹凸があって、その凹面に水分が溜まり、その凹凸によって表面張力が働き、水分が外に出にくくなっていることを説明しようとしているのだと思います。

平らなところに水を張ると、そこから一斉に水が蒸発していきます。

ところが小さな凹凸があると、それは、面ではなく点状に水が存在することになりますので、その分だけ、蒸発を押さえることができます。

その結果として、蒸発が抑制され、食物の乾燥防止がなされて、水分の維持がなされ、水分が維持されることで、新鮮さを保った食物のままでいられることを示唆しているのだと思います。

しかし、水分の蒸発防止で新鮮さは保てるとしても、「うまさ」の問題はどうなるのでしょうか?

その「うまさ」とは、単なる水分の調節にのみに依存したことなのでしょうか?

同時に、「うまさ」の本来の意味は何なのか?

これらの疑問が自然に湧いてきます。

「旨み(うまみ)」とは、グリシンなどの旨み成分(アミノ酸)を含む味のことを意味しますので、それらに関わることが起こるのかどうか、これについても考えてみる必要があります。

そこで、この問題について科学のメスを入れるために、実際に、備前焼の上で、各種の食物がどうなるかについて実験を行ってみようと思うようになりました。

まずは、食物がうまくなるのかどうか、この見きわめ実験から始めます。

もしそうであれば、そこに「うまさ」の秘密が隠されているはずです。そうすると単なる水分説では、この問題を説明することができなくなるはずです。

この仮説が成り立つか、わくわくしながら、その実験を試してみたいと思います。
85m巨大窯の最前部

                       85m巨大窯の最前部