自然光の10分1しかない光量で、露地野菜を上回る生産性と採算性を得ることは、相当に難しいことでした。

野菜に頑張って成長してもらうために、24時間光をあて続けると、それだけ電気代が増えていきました。

しかも、光量が比較的少なく済むレタス系の野菜しか育てることができず、そのレタスの価格も、露地野菜と対抗するために高く設定することができませんでした。

そこで、わずかな生産量では、もともと小売値が高くないので、利益を出すには、それを大規模化した方がよいと考えてのことでしょうか、大規模植物工場化の指向が生まれてきました。

しかし、この大規模化によっても採算性は改善せず、かえって、赤字が進むところが多かったのではないでしょうか。

こうして、植物工場野菜は、露地野菜の市場に侵入していくことはできないままで、今日を迎えています。

あるとき、植物工場野菜と露地栽培野菜の比較がテレビ放送においてなされていました。それを踏まえて、ここで、その比較をしておきましょう。

      露地栽培野菜     植物工場野菜
価格   安い           高い(露地栽培野菜を1とすると6倍高い、重量比)
新鮮度  高い           露地栽培と比較するとより劣る
味     おいしい         露地栽培と比較するとより劣る
安全性  農薬あり        無農薬で安全      

これでは、植物工場野菜が勝とうにも、露地栽培野菜に勝てる要素がありません。

テレビ局の担当者の指摘に、この植物工場論者は、この比較に何も反論できていませんでした。

おそらく、最初の基本的なところから、小さくない問題があり、それを解決できないままできたのではないかと思うようになりました。

そして、植物工場に関する次の仮説を持つに至りました。

①生産性を6倍ではなく、10倍にまで向上させるにはどうすればよいのか?

②大規模化ではなく、小規模化を指向し、その際小規模はどの程度まで可能か?

③新鮮度と美味しさで、露地栽培野菜に勝ることは可能か?

④人工光は採用せず、自然光のみで①~③の課題解決は可能か?

⑤レタスのみでなく、多様な野菜栽培が可能か?

⑥国民の理解と支持を得て、健康野菜生活を実現できるか?

⑦外国産野菜に押されている現状を打開し、農家の役立つ植物工場をつくることは可能か?

⑧簡単で、誰もが参入できて、適性の採算性を確保できるか?


これらは、いずれも難問中の難問であり、これらを追究するには、それこそ「一からの出直し」が必要でした(つづく)。

広重 大磯 虎ケ雨

                             広重東海道五十三次