単独記事50回記念の第二弾です。

前回は、『原発ホワイトアウト』という小説を紹介させていただきました。

これは、新崎県(裏日本に,これとよく似た県があります)にある日本最大の原子力発電所が、極寒のなかで電源喪失し、その7号機および8号機がメルトダウンして爆発し、大混乱が起こったことで終わっていました。

福島の悲劇が、再び新崎県で起こるという、ショッキングな結末でした。

しかも、この大惨事を引き起こした理由は、「原発再稼働」にあり、この原発ホワイトアウトが、東京を中心とする関東を放射能汚染で廃墟にしてしまった、というものでした。

たしかに,ここまでを論理的に導くには,大変な展開力と説得力が必要でした。しかし、それは十分に備わっていました。

とくに、官僚内部の目から、それを見た点が新鮮で、官僚の方々が何を考えているかを赤裸々に描いているのが読者の興味を引き立てていました。

それらは、大変おもしろかったのですが、なんとなく物足りない、あっさりと、メルトダウンが起こったことでおしまいなのか。

これが読み終えた時に湧いてきた正直な感想でした。

日本最大の原発でメルトダウンが起きると,どうなるのでしょうか。

作者は、この問題を続編で詳しく書くために、その事故と、それに続く大惨事のさまざまなことを、敢えて書かずに終えていたのだと思います。

ここに用意周到な作者の意図が隠されていたことが、第二作を読み進むにしたがってしだいに明らかになっていきました。

この東京ブラックアウトの前半は、福島原発の事故以降、いかにして原発の再稼働を果たすか、そのために、電力マネーを惜しげもなく使い懐柔していくかの暗躍が、電力とそれに気脈を通じた官僚によって執拗に繰り広げられていました。

そして、その工作は見事に成功し、かつてと同じように、そして、その電力筋とそれと一心同体の官僚の描いた通りに、ある意味で簡単に、原発をかなりの数で再稼働させたのでした。

これで、めでたし、めでたし、ということでしょうか。

福島の大惨劇は、どこ吹く風で、「そのうち忘れ去られるであろう!」、これがかれらの思いでした。

しかし、意外な人物が、最後の最後で反旗を翻します。

それは、平和と国民の安寧を願う天皇、その人でした。

まず、原子力担当の長官を呼びつけます。かねてより知り合いの間柄でした。

「再び、原発のメルトダウンが起きたら、どうするのですか?二度と福島の大惨事が再び起こることがあってはなりません」

こう、天皇から尋ねられた長官は、それに真正面から答えることができませんでした。

「もし、同じ事故が起きたとしたら、だれが責任を持ってしっかり対処するのですか?」

長官は、ますます、返事ができなくなり、形通りのことをいってすごすごと退散するだけでした。

天皇の思いは、次の行動に反映されていました。

これでは、祖国日本が危ないと思い、時の内閣が行った衆議員選挙後の内閣総理大臣の任命を拒否するという挙に出たのでした。

心配されていた共産党の躍進も、特別の方法で抑え込み、選挙に勝ったのですが、保守党の可部総裁は、まさか、天皇が自分の任命を拒否するとは思っていませんでした。

天皇は、この美しい日本が廃墟と化すことに、我慢ができなかったのでした。

しかし、この天皇の思いも叶えられず、原発再稼働が次々に実現されていきました。

その中には、日本最大の新崎原発も含まれていました。

そして、その7号機と8号機が、相次ぐ電機系統の故障、不具合で、炉心のメルトダウンを起こし、爆発してしまったのでした。

折から、極寒の雪が吹き荒れていた大晦日、NHK紅白歌合戦が終わった後のことでした。

この爆発で、放射能は、北風に乗って関東一円に及び、雪となって降り注いだのでした。

この黒い雪で、東京一円は完全に覆われてしまいました。

まさに、日本の中心であった東京は廃墟となり、人ひとり住めない地域になってしまったのです。

これは、現代版「日本沈没」に相当します。

日本列島は、新崎と東京間を放射能で分断され、沈没してしまったのでした。

以上が、本小説上で繰り広げられた二度目の原発事故による「日本沈没物語」です。

これを読み終えた時の正直な感想は、「そんなバカなことが起こるわけない」というものではありませんでした。

「もしかしたら、日本列島は、そのようにして沈んでいくのかもしれない」、このように思えたのですから、ここに、本小説の切り込んだ凄さがあるのかもしれません。

「絶対大丈夫」といって建設してきた50を超える原子力発電所。

「総括原価方式」で金を生み出し、その金で原発を推進してきた電力、天皇が心配するほどの行政の、いざという時の責任の無さ、原発村に囲われた政治家と学者など。

この小説によって露わになった体質は、第二、第三の福島原発事故がいつ起こってもふしぎではない、そのことを十分に示唆しているように思いました。

原発メルトダウンによるブラックアウトは、東京のみならず、すべての原発によって、日本列島を縦横に吹き散らす力を有しており、その沈没の恐れのあるなかで、私たちは実際に生活しているのかと思うと、暗澹たる思いになりました。

もう一度、この意味をしっかり考えてみる必要がある、こう思いながら、いつになく神妙になってマイクロバブル入浴における読書を済ませた私でした(つづく)。
東京タワー
東京タワー(YO氏撮影)(『東京ブラックアウト』表紙には、この東京タワーの写真が掲載されています)