日本経済を新たに牽引していくエンジンがなくなってしまったという話から、それをどうすればよい
のか、この課題を検討するために、本シリーズを開始しました。

その過程で、日経新聞の社説や特集記事が目に入り、それについても考察してきました。

それらをまとめると、今日求められているのは、イノベーション加速ではなく、その新たなエンジンを生み出すイノベーションそのものではないかと思いました。

ここには、画期的なイノベーションを見出すことができない、そして、それを発展させることができずに混迷に陥っている姿を垣間見ることができました。

一方で、そのイノベーションをめざす若者にとっては、今の職場で、それを待つことができない問題が生じていることが指摘されていました。

自分は、歯車の一つで終わってしまう、イノベーションの全体を動かす課題には取り組めない、という今の大企業の限界の問題が若者サイドから指摘されていました。

鋭く、大きな直観を働かせ、全身全霊を打ち込んで実現するのがイノベーションの課題ですから、それに一心に取り組んでみたいと若者が願うのは、むしろ自然なことです。

ベンチャービジネスが「冬の時代」と呼ばれるようになって久しいこの頃ですが、この若者指向が生まれてきたことを大変頼もしく、そして新鮮な気持ちで受け留めさせていただきました。

また、この新たな目覚めを踏まえて、日本の技術者教育界も、その今後のあり方を大いに研究すべきではないかと思いました。

グローバリズムを背景にして、若者に国際的視野を有する教養を持て、といっても、それが簡単に成就されるものではありません。

大切なことは、鋭く、大きな直観を磨くことを可能にする実践を粘り強く重ねていくことです。

それに使命観を抱いて、知恵と工夫の力を注ぎ込んで成長を遂げていくことではないでしょうか。

また、妊婦や若い母親たちが、安全安心の食物を求めているという記事にも注目させていただきました。

生まれてくる赤ちゃんや幼児を育てる際に、その食物の安全性を考えることは、ある意味で当然のことだといえます。

これは、高齢者においても同じことで、身体が老齢化してくると、それだけ、栄養価の高い安全な食べ物を欲するようになります。

ところが、そのような安全安心で安く買える食物は、この世の中になかなか存在していないのです。

安全安心といわれていても、じつは、そうではなかったという類のものが、この世には相当数出回っています。

これを見分けることができるように賢くなり、しかも、安全安心の実感を体験できるまでになるには、その体験を重ねて鍛錬していくことが必要になります。

そして、その行き着くところは、「自分で育て、自分で食べて味わう」、それによって「健康を実感し、維持する」ようになることだと思います。

そのためには、若い母親や高齢者であっても、自分で育て、自分で食べることが可能になる技術開発が必要になります。

しかも、それは高価ではなく、自分で育て、自分で食べることによって、十分に投資した分が返ってきて、さらに、得するようなシステムの開発でなければなりません。

母親や高齢者が、子供たちに、孫たちに、「これは安全で、とびきりおいしいよ、そして市販のスーパーの安さにも負けないよ!」、こう言いながら、それを納得させるようになる日が、やってくるようにしなければなりません。

私は、これこそ、今の時代にふさわしいイノベーションであり、新たな「エンジン」ではないかと思っています。

大切なことは、そのために、みんなが力を合わせることではないでしょうか。

ということで、本シリーズはこの稿をもって終わりとさせていただきます。
北斎-1
葛飾北斎「富獄三十六景」