下図は、東日本大震災があった2011年における大船渡湾における水温データ(岩手県水産情報センター提供)です。




これよりも明らかなように、実験を開始した8月初旬の水温は、その表層において17~18℃を示しています。

貝類が産卵を始めるのは、水温が18℃になってからだといわれていますので、この時点で、カキの産卵から放卵への移行は直前状態であったといえます。

前回において、その時の写真で示したように、ほとんどすべてのカキが十分に成長を遂げないままに腹いっぱいに産卵を行い、いまにも、それが破れて放卵を行いそうな様子であることを確認していました。


それゆえに、実験開始とともに、この放卵を食い止めることができるかどうかを、その最初に確かめることが重要な課題として突き詰められたのでした。

「これは水温上昇との闘いになる! 頻繁に来て、このカキの状態を確かめなければならない。果たして、マイクロバブルで、この放卵を食い止めることができるのか?」

私としては、いきなり本番の課題解決が迫られることになりました。

ーーー この切羽詰ったカキの状態も、天が与えてくださった試練なのかもしれない。ここは、マイクロバブルを大量に発生させることで、それに頼るしかない。

やや、広島カキ養殖改善のときと、やや条件が異なっていましたが、マイクロバブルに縋(すが)る気持ちは同じでした。

実験開始の日の翌日も、そのカキの状態を観察し、その1週間後にも、再び現地を訪れ、装置の稼働状況の点検とカキの観察を行いました。

上記の水温分布によれば、この時点で水温は18℃に達していました。

ーーー すでに、放卵を開始しているか。そうでないか?

それは、カキの身の産卵部を切断してみればわかることですので、すぐに確かめてみました。

ーーー おやっ? まだ、放卵していない。それに、産卵部が、やや固まってきたような気がする。ひょっとして、卵が固まりかけているのでは? マイクロバブルの効果か?

いくつかのカキを調べましたが、いずれも同じでした。

その身入りによる硬化現象は、カキの身を横に切り、その断面を海中に晒すことによって、さらに明らかになりました。

ーーー これは、1週間前と明らかに違う! あの時は、産卵部がミルクのように海水に広がっていったが、今回は、それが少なくなっている。その産卵部もより固まってきているようだ!

「マイクロバブルで産卵部の身入りが始まったようですね!」

こういうと、傍にいたカキ漁師は、とても信じられないという顔をされていました。

しかし、その信じがたきことが目の前で起きていたのですから、それをより正確に確かめる必要がありました。

そこで、さらに、その1週間後にも現地入りし、その観察を続行しました。この時は、すでに水温が20℃近くになっていましたので、例年通りの産卵から放卵が起こってもよい水温状態になっていました。

しかし、そのカキを調べると、その産卵部はほぼ固まり、それを切って海水にさらしても、そのほんの僅かが海水に流れるのみでした。

これは、明らかに、マイクロバブルが身入りを促進させることによって、放卵を取りやめさせるという制御がなされた結果といえました。

「ありえないことが起きた、大船渡湾では初の産卵および放卵制御がなされたことを確認できた」瞬間でもありました(この稿続く)。

大船渡湾MB水域

マイクロバブルが稼働している実験水域の様子。黄色いブイの下に装置が設置されています。