来年になれば、巨大な登り龍のような炎が形成されるであろうと思われる登り窯には、すでに、ぎっしりと作品が詰められていました。

後は、前方の焚き口を塞ぐのみの状態に至っており、数か月前の訪問の時よりも、さらに準備が急ピッチに進んでいました。

この段階において、もっとも重要なことは、温度と湿度の管理であり、急激な温度や湿度の変化で、作品が変質しないようにすることだそうで、そのための工夫がいくつもなされていました。

この制御ができなくなると、貴重な作品群は、一斉にひび割れを開始し、最後には、自重による不均衡で自壊し始めるとのことでした。

この作品群の運搬、設置、維持には、細心の注意が払われ、窯の点火の日を待っているかのようでした。

まず、この作品群が静置されている窯の内部環境において、最も重要な窯の入り口部の温度計測を、高性能の赤外線カメラ(別名放射温度計とも呼ばれる)を用いて行いました。

その結果、多数の作品群に重大な危険を及ぼす恐れがないことが明らかになりました。窯の内部は、ほんのわずかな温度差しか生じていない見事な温度環境場が形成されていました。

これは、密封された巨大な登り窯のなかで、数々の作品群が安らかに眠っているという光景を想像させるものでした。

次に、実際の甕製作の現場に移動しました。まだ製作中のものがあるとのことで、ここでも、作品内外の温度場の高精度計測が行われました。

巨大な甕ですので、自重に十分耐え、自らを支えることが必要になります。

そのためには、甕の内外、上下、そして、それが置かれている温度湿度の微妙な制御が求められます。

ここに、巨大甕づくりの秘伝的技術の妙がいくつも発揮され、それに加えて、新たなノウハウの適用が随所になされていました。

これらの知恵と工夫によって、かつては製作できなかったサイズの甕が、堂々と新たに作成可能になりました。

そのことが、実際の温度場の詳細な計測によっても明らかになりました。これは、伝統と創造によって生まれた巨大甕づくりにおいて、新たな科学的知見が融合された重要な瞬間でもありました。

「こことここの温度の違いは? ここはどうでしょうか?」

「ここは、温度が低いはずなのに、どうしてやや高いのでしょうか?」

「そうか、この作業によって、温度の維持が図られているのですか! みごとですね」

そこには、土を用いて甕を造り、その土で自らの形を整え、制御するという高度な技術の裏打ちがあり、そのことが本温度計測の結果からも浮き彫りにされました。

陶芸家のM先生にとっては、いくつも思い当たるところがあり、その結果を逐一確かめられ、納得されては何度も頷いておられました。

ここで製作された巨大な甕が、上述の登り窯における火づくりにおいては重要な役割を果たすそうで、それらが多数林立する傍を、それこそ登り龍のように炎が上へ、上へと上昇していく姿を想像すると、これは、見事な火の制御の世界ではないかと思いました。

この居並ぶ甕たちは、巨大な大規模乱流の炎の形成に重要な寄与をなすために造られたものだったのです。

この巨大な乱流炎が、より小さな炎に枝分かれし、より高い温度の繊細な炎へと発達し、それが焼き物に鮮やかで、そして微妙な彩と変化を与えるのです。

真に、わくわくするような世界の出来事が始まるのですね!。

これから、足かけ26年のプロジェクトにおける焼き物作りの最終章が始まろうとしているのです。

苦節26年を経ての、ロマンに溢れる千秋楽の幕開けが近づいているのだと思います(この稿続く)。

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陶芸場に植えられたモミジ、これが立派に育つことで、この地が陶芸に適していることが確かめられた。