青侍は、脱水症状を起こして意識朦朧となっていた高貴な女性に、自発的に蜜柑を差し上げることによって、彼女の危機を救いました。

これには、彼女も家来たちも大喜びでした。そして、そのお礼として、持ち合わせていた高級な白布を3疋いただくことになりました。この3疋とは、6反もの巻布でした。

ここで、当時の高級布が、現在の価格でどのくらいしたのかが気になり、それを調べてみました。

その際、その白い布の材質が何なのかが問題になりました。

高級の白い布ですから、それが麻なのか、それとも、絹なのか、それを決める必要がありました。

そこで、わらしべ長者に出てくる高級白布地が、どのように言及されていいるかを調べてみると、麻と絹の両説がありました。



以下は、斎宮歴史博物館の斎宮千話一話(第5話)に記された、当時の値段です。
 ●麻・・・・・1反  1800円 6反分で 1.08万円
 ●絹・・・・・1反 24000円 6反分で 14.4万円

これでは、両者に大きな差異があります。

そこで、高貴な方が「おしのび」で持っていた高級布ですから、麻では高級布とはいえないような気がしましたので、ここでは、絹をいただいたことにしました。因みに上記斎宮千話一話では、「麻」説が採用されていました。

なにせ、高貴な方の命を救ったのですから、14.4万円でも安いはずです。

これに対し、蜜柑の方は、大きいといっても、せいぜい1個100~200円だと推定します。仮に150円とすると3つで450円になります。

当然のことながら、この14.4万円と450円では、大差があり、比較にはなりません。

周知のように、この非等価交換が成立したのは、救われた彼女の側の危機的条件が影響していました。

わずか、数百円のものが、320倍にもなったのは、その彼女の命すら危なかったからであり、この命は貨幣で換えることができない重さを有していました。

それゆえに、彼女の方は、その若侍に、もっと「お礼」をしたかったので、今日の住所を教えたのではないかと思います。

この青侍の思いやりと気転によって、「虻のついたわらしべ」よりもはるかに尊い速断を行うことができたのは、その心の奥に、観音様への信心があったからだと思います。

おそらく、その時に、この青侍は、「観音様だったら、どうするのか」と考えたのではないでしょうか。

この経験を通じて、この青侍は、ますます、こころ豊かに成長できることを学んだのだと思います。

人の命を救う、これは、この世で最高の営為のひとつではないかと思われます。

それにしても、この青侍は、6反もの高級布を手に入れることができて、さぞかしうれしかったことでしょう。

蜜柑から高級布への飛躍は320倍でした。私には、このような飛躍があったのでしょうか(つづく)。