広島カキ養殖のことで、やや深く分け入ってしまったようです。

それは、これから述べるカキ養殖に関する重要なことがあったからでした。

広島では、「抑制」と呼ばれる、いわば稚貝段階での鍛錬がよく行われています。河川の河口部における干満差を利用して、海水の浸潤後に空気にさらすことで、稚貝の成長を抑制し、鍛えるのです。

これは、稚貝が付着したホタテの貝殻を何枚も重ねて吊るした状態としてよく見かける光景です。

この「抑制」されたカキを、5月になってから「通し替え」という作業を行います。このホタテの貝を縄に、約50㎝置きにして結んでいきます。

ホタテの貝殻に付着したカキが成長し、鈴生り状態になっていく空間をつくってやるための作業です。

この通し替え作業の現場を何度か見学したことがあります。その時、カキ漁師から、とても重要なことを教えていただきました。

「先生、これ見てみいー、稚貝が卵を持っているじゃろが・・・・」

卵とは、カキが子孫を残すために産卵をする、その卵のことでした。

こういわれ、私は、そこら中の貝を見て回りましたが、いずれの貝においても、その言葉通りのことが起きていました。

そして私が驚いたのは、殻長が5㎜、1㎝という稚貝の状態で、ほとんどすべての貝が産卵状態になっていたことでした。

これは、ヒトに例えれば、幼稚園児が妊娠して子供を身ごもるようなことであり、この異常さに頭を打たれたような気分でした。

未熟児状態のカキが身ごもり、生物として最も大切な産卵を行い、やがて、それを放卵して子孫を残そうとしてしていたのです。

産卵は、カキにとって重要なことですが、最も危険なことでもありました。なぜなら、それに体力を費やし、自らを成長させることが後回しになり、身体が弱ってしまうからです。

現に、放卵後のカキは痩せてしまい、しばらく、自らの成長を止めてしまいます。そのため、10月のカキの解禁日を迎えても、売れるようなカキがなく、東北地方の東海岸では、軒並みのカキ不足状態が起こります。

そして、これが11月まで続き、その翌月になって初めて成長したカキを十分に販売できるようになるのです。

ここで重要なことは、私たちが食べているカキのほとんどが、その未熟児状態で卵を持ち、十分に大きくなって大人になる前に、産卵と放卵を繰り返さざるを得ない状態に陥っていることです。

これは、未熟児のカキが、未熟児の子孫を拡大して保存していることを意味します。

これを繰り返すことによって、その種はさらに弱体化していきます。5月の稚貝段階で産卵状態になるということは、その危うい種の保存の行きついた先のことだったのです。

当然のことながら、昔のカキは、このような生来の虚弱体質ではありませんでした。稚貝段階では卵を持たず、身体を十分に大きく成長させてから産卵し、放卵をしていたのです。

「幼子が、赤ん坊をお腹に孕んでいる!」

この事実を目の前にして、私は愕然としました。おそらく、日本中の貝が、このようになっているのであろう。

食の安全は、このカキにおいても脅かされていたのでした(つづく)。

1999カキ稚貝












1999年6月22日に江田島湾で撮影したカキの稚貝です。ホタテの貝殻にカキの稚貝が付着していて、その大きさは1㎝前後でした。この稚貝のほとんどが卵を持っていましたので、この卵を身に変えることが重要な課題として浮かび上がってきていました。