回の大船渡湾における水産養殖復興の課題に取り組むにあたって、マイクロバブル技術を用いて広島カキ養殖改善に取り組んだ実績が非常に役立ちました。

広島湾では、1998年に新種のプランクトン(「ヘテロカプサ・サーキュラリスカーマ」と呼ばれる南方系のプランクトン)の大量発生で文字通りの海が赤くなる赤潮が出現しました。

この大量発生したプランクトンが斃死し、底に溜まりはじめ、それが膨らんで、水深約1.5mの以下の水域が無酸素化しました。これによって、それ以下に沈められていたカキは全滅しました。

また、水表面から水深1.5mまでの水域のカキも、そのプランクトンが心臓まで侵入し、呼吸障害を起こさせてかなりの量のカキが死にました(全滅ではなかった)。

じつは、ここで重要なことは、水深1.5mまでの水域では、まだ生きた貝がわずかでしたが、残っていたということでした。

また、カキは、このプランクトンが1cc中に約1万個発生すると死に始めることも調べられていました。

ところが、赤潮発生においては、このプランクトンが発生すると、打つ手は何もないと説明され、カキ筏も動かすことができないとされていたのでした(動かすと他の筏に被害が拡大するといわれていた)。

一度、このプランクトンが発生すれば、カキはすべて死んでしまうということを、カキ漁師たちは信じ込まされていたようでした。

この赤潮発生の翌年には再来の可能性があったことから、その春先からメディアの取材が盛んに繰り広げられていました。

その時、この水質悪化の原因として唱えられたのが「密殖説」なるものでした。これは、カキ養殖が過剰になって、カキの糞が湾の底に溜まって、それが原因で、水質悪化がもたらされるという説明がなされていました。

そのため、カキ漁師は、養殖するカキ筏の数が厳しく制限されていました。

しかも、この「密殖説」は、奇妙なことに、「酸欠説(溶存酸素不足によるカキの斃死)」と相並べる形で示されていました。その典型が、1999年の初夏に放映されたNHK中国の特集番組にも現れていました。

この番組では、カキ漁師に、この両説のいずれかを選択するような問いかけがなされ、あたかもカキの密植が広島湾の水質悪化に重大な影響を与えているかのような考えが示されていました。


周知のように、酸欠説は、植物プランクトンが大量発生し、それが死滅後に沈み、その下層から酸欠・無酸素状態になって、その影響を受けることでカキの斃死が起こっていることを示すもので、広島湾では、その酸欠・無酸素水域が、その一部において恒常的に発生していました。

一方、密殖説は、カキを大量に養殖することで海の汚染が広がるという、真におかしな「考え」でした。

カキの餌は植物プランクトンですから、それを摂取することによって、上記の酸欠問題の改善に結びつくはずですが、それが多すぎて海が汚れるというのは、あまりにも現実に則していません。

現に、私どもは、江田島湾においてカキ筏の下の水質を計測したことがありますが、その底質の汚れはほとんどなく、酸欠も夏場の一部に、ごく底近くで起こるのみでした。

しかし、その江田島湾では、密殖を防ぐという理由で、カキ筏数の制限が行われていました。

また、これらの両説では、その前年で新種の植物プランクトンの大量発生によってカキの大量斃死が起こり、45億円もの被害が生まれた真の原因を正しく説明できていないように思われました。

新種のプランクトンの異常な大量発生と死滅、それに伴う無酸素水域の拡大(水深1.5m以下が無酸素状態になった)が、カキの大量斃死の原因でした。

実際、江田島湾では、その翌年にもじわじわと、そのプランクトンが増え始め、今度は、カキ漁師たちが気転を働かせて、カキ筏そのものを移動させ、その大量死滅を回避しようとしたのでした(実際には、赤潮発生寸前で雨が降り、前年度のような大規模な赤潮の再来はありませんでした)(つづく)。

カキマイクロバブル佐伯
写真は、カキ筏におけるマイクロバブルを発生させた時の水中写真(右側にマイクロバブルが煙のように滞留しているのが明らかである。また、写真上部にはカキ筏の格子が薄く見える。㈱サンゾーの佐伯社長撮影)。