海に近いところに、ある旅館があります。創業はかなり古く、老舗の旅館で物語が生まれそうです。

じつは、そこの方の二人他がマイクロバブル風呂の入浴体験に来られました。これらの方々が、この物語の主人公です。

土曜日の午後三時、これが待ち合わせ時刻でした。道路に面した潜り戸を抜けると、家紋の入った垂れ幕がかけられた玄関がありました。

ここで挨拶を交わし、一息つく間もなく奥へ進みました。

すぐに左がソファーのある応接間、その奥には左から洋風のレストラン、しゃれた机と椅子が並んでいました。

それから真ん中は、低い丸い机を囲んで4つの木の椅子があり、思わず、その椅子に座ってみたくなるような古風な椅子でした。

右手には和風の応接間に、これまたしゃれた机と椅子が並べられ、その奥には立派な屏風が置かれていました。

泊り客は、このいずれかの空間で寛げるようになっており、私は、この真ん中の空間がとても気に入りました。いつか、この椅子に座り、庭を眺めながら書き物でもできるとよいなと思いました。

また、これらは、いずれも、その奥にある中庭に面していて、そこから光を取り入れていました。

この中庭には池もあり、鯉が泳ぎ、立派な松も植えられていました。

明るい中庭を中心にして周囲に宿泊の部屋と上述の応接間やレストランがありました。また、その最奥の一部の海に面したところに風呂がありました。

本日の目当ては、そのお風呂にあり、それこそ迷わず風呂まで案内していただき、すぐにマイクロバブル装置を設置していただきました。

「ポンプは、ここに置いて、コンセントはここ」、「マイクロバブル発生装置を湯船に設置して・・・」と、瞬く間に、その設置が終わりました。

ーーー まず、この潮湯の第1号の入湯者として、そのマイクロバブル効果を確かめるのだ!

この想いに駆られて、ここまでやってきたのでした。

私にとっては初のマイクロバブル潮湯体験ですから、心惹かれるのは当然のこと、これを別名好奇心ともいいますが、それこそ、わくわくしながら服を脱ぎました。

ーーー さあー、入るぞ!

喜び勇んで入ろうとして、しばしの待ったがかかりました。風呂が熱すぎて入れなかったのです。

ーーー これは熱い、このまま入れる温度ではない。体感温度から推測すれば45度はあるであろう。

いつも39℃のお湯にしか入りませんので、勢いよく水を出して薄めるしかありませんでした。

ーーー これで41℃か42℃にはなったであろう。ここは我慢して入るしかない。

すでに、マイクロバブルの発生は始まっていました。その出口付近を観察すると、淡水の出具合よりも白く見える部分が幾分多いようでした。

ーーー 目にはよく見えないが、この湯船はマイクロバブルで充満しているであろう。それにしても少々熱いが、ここは我慢するしかない。

それに、たくさんの水で薄めてしまうとせっかくの潮湯の効果が薄らいでしまう・・・・。

しかし、この熱さも慣れてくると、かえって刺激的で、悪くはない。

お湯の熱さが手足にまで及んできました。この間、数分でしょうか、湯船のなかにじっとしていると、ガラガラと風呂の扉を開ける音が聞こえてきました。

「どうですか、お風呂は?」

「いい湯ですよ、一緒に入りませんか?」

声をかけてきたのは、たまたま、その日に我が家に来られていた「いとこ」でした。

彼とは、それこそ長い付き合いです。私の大学生としての卒業式に、当時小学生であった彼が一緒に出席したという仲であり、今では水産庁の研究所の幹部になられています。

「今日は運が良かったねー、めったに入れない風呂に入れるのですから・・・。それにしても、これは、いい湯だね!」

そして、今度は彼と、しばらくのマイクロバブル風呂談義を楽しみました。

東の窓からは、すぐそこに海が見えていました。

彼が先に風呂から上がり、しばらくして、私もやや紅潮気味しながらでしたが、出浴しました。

ーーー さて、初のマイクロバブル潮湯の効果がどう現れるか? 

入浴中は、お湯をやや熱めに感じていました。実際の温度はそれほどでもないのに、やや熱く感じる、これは隣の彼も同じ体験をしていました。

マイクロバブル発生口に手をやると、その噴射したお湯がやや熱めに吹きだしてくることも確かめました。

しかし、それ以上のことはよく解らないままで、入浴中は、とてもさわやかな感じがありました。

「とてもいい湯でした!」

私の感想を聞こうと待ち構えていた女将さんらに早速感想を述べさせていただきました。その最中に話が弾みかけたところで、初のマイクロバブル潮湯効果を私の身体が知覚・認識し始めました。

ーーー この感じは、どこかで体験したことがある。そうだ、富士吉田市にある「芙蓉の湯」の入浴後の感じとよく似ている、いや、そっくりだ!

「入浴後の脱力感、疲れがすっかり抜けた感じは、富士吉田市のバナジウムの湯とよく似ています。このような体感は、その時以来二度目のことです」

こういっても、周囲の人々は、芙蓉の湯に入った経験がなく、すぐには理解できないことでした。

身体がリラックスして、すっかり脱力する、普段は、このような状態にまではなかなか至りません。この脱力感、これが、この入浴体験において最初に感じたことでした。

つづく


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