先日、馬好きのMさんから、「シービスケット」という映画があることを紹介されました。

これは、アメリカの大恐慌の時代に活躍した名馬のことです。

怪我で足が曲がった小柄の馬が大恐慌時代の暗い世相のなかで大活躍する物語です。

そのことをアメリカ国民は、なんと痛快に感じ、拍手大喝さいしたのです。そして国を救ったのは、大統領や一大公共事業ではなく、この馬であるとさえいうようになりました。

この名馬物語を創ったのは、馬主、調教師、レッドという名の騎手の3人でした。それぞれ、不幸や失敗に遭遇しながら、この馬とめぐり会います。

馬主のハワードは、もともと機械の修理工でした。

折からの自動車ブームの波に乗り、自動車修理店を開き、これが当たって徐々に商運をつかみ、大富豪への道を歩みます。

そして長年の夢であった牧場を買い、そこには厩舎もありました。当初は、そこを自動車の車庫に使っていました。

その後、調教師のスミスと運命的な出会いを果たします。スミスは、馬の調教師としては時代に取り残された存在でした。

あるとき、怪我をして廃馬寸前の馬をもらいうけ、その馬と山でテント暮らしをしていました。

その姿をハワードが偶然見つけ、夜中にスミスに会いに行きます。怪我をした馬の足を見て、何をしているのかと尋ねます。

スミスは、足に薬草を塗り、血行を良くして、怪我を治しているのだと答えます。そして、次のように名セリフをいいます。

「一度怪我をしたからといって、それで馬の人生が終わるわけではない!」

息子を亡くしたハワードにとって、この一言は胸に響きました。そして、スミスが調教師としてハワードに雇われたのは1935年のことでした。

もう一人の主役の騎手レッドは、カナダ生まれで裕福な家に生まれました。父親は教養ある人間で、ディケンズの物語を子どもたちに聞かせ、暗記させるほどでした。

しかし、大恐慌の波に襲われ、家屋敷を無くして流浪するようになり、レッドは厩舎に身売りされます。

騎手としてのレッドは必ずしも順調ではなく、苦労をしながら成長していきます。いつも騎手仲間との喧嘩が絶えませんでした。

そんななか、スミスは、レッドの騎手としての目の輝き見抜きます。それは、怪我をしたシービスケットの馬の目の輝きと同じでした。

伯楽としてのスミスは、それらの目の輝きで、騎手と馬の可能性を見抜いたのでした。

それは、いざ戦うとなるとギラギラ光る目であり、それに注目する調教師は、だれもいませんでした。

名馬の血統を持ったシービスケットでしたが、それまでの成績はぱっとせず、名調教師の手にかかっても、その才能が開花することはありませんでした。

その時のシービスケットは低級の競争馬というレッテルを貼られていました。

しかも足にけがをしており、普通の調教師ですと見放すところを、スミスは違いました。その馬の目を見て、「これはいける!」と直観したのでした。

こうして、戦うことができる騎手と馬のコンビを実現させたのが、スミスとハワードのコンビでした。

馬、馬主、調教師、そして騎手における共通項が「挫折」を経験していたことでした。しかし、かれらの目は、普通の馬と人とは桁違いに違っていたのです。

この挫折集団のチーム「シービスケット」の結成が、その後の快進撃の原動力になっていきました。

つづく

Si-isu

シービスケット像。