「何とかしなければならない」、この思いは募る一方でしたが、いざ、何をすればよいのか、それを考えると、よいアイデアがすぐに浮かんでくるわけではありませんでした。

 とにかく、「頼れる」のはマイクロバブルだけなのですから、その「マイクロバブル」をあの「黒い手」に与えてみよう、それが先だと思うしかありませんでした。

 「どこで、どのように与えるか?」、美容院での一連の作業を実際に思い浮かべてみました。

 洗髪、カット、パーマと、この一連の過程がありますが、ここのどこかに入り込む余地はどうやらなさそうでした。

 そうであれば、これらの各過程において、どこかでマイクロバブルを導入し、そこで用いながら美容の作業をするということは、やはり無理があるような気がしました。

 そこで、残るは、仕事が始まる前か後しかないということになります。

 「それでは、朝の仕事始まる前の10分間、マイクロバブルの装置に手を入れることができますか?」

 「それができるのでしたら、その手を入れる装置を作ることにしましょう。可能でしたら、休憩時間に、そして仕事が終わってからも入るようにしてください」

 「はい、わかりました。そうします」

 そこで、手荒れの「手」を入れる装置の開発を行うことにしました。水の容量は数リットル程度とし、ポンプとマイクロバブル発生装置を組み込んで、移動も可能なポータブルタイプにすることにしました。

 外観は、ポンプのボックスの上に丁度水槽を重ねて置いた構造で、その水槽の中にマイクロバブル発生装置を設置するように設計しました。

 この新型装置を製造し、再び美容院に赴いて、この実験の協力をしていただくことになりました。被実験者は3人、いずれも手荒れで苦しんでおられ若い美容師さんたちでした。

 そのなかの一人が、あの「黒い手」の方であり、ほかの二人は、指の関節の部分が膨らんで、その一部が「赤ぎれ」をしていました。

 また、もう一人は、軟膏を塗って改善しつつある方でもありました。

 「とにかく、毎朝、仕事が始まる前に10分間、この中に手を入れてみてください。手を入れるだけですから、簡単です。しかも、この中には水と空気しかありませんので、手を傷めるようなものは入っていません」

 こういいながら、その3人に手を入れていただきました。約10分間経過して、どうなったか、その様子を見守りましたが、それで、すぐに目に見えるまでの改善がなされることはありませんでした。

 これはある意味で当然のことですが、途中、「どうですか」と尋ねると、「とても気持ちがよい、あたたかい」という返事がありました。

 これもよくある返事ですので、特別のこととは思わず、「驚く」こともありませんでした。

 「若干、手の皮膚の色が変わったかな?」

 こういいながら、その手の裏表を詳しく観察しましたが、それだけでは何も変わっておらず、「少し手がきれいになりましたね」と申し添える程度のことのみでした。

 ところが、彼女らが手を入れていた水槽を眺めて、その色が変化していたことに気づき、今度は一同が、それこそ吃驚(びっくり)してしまいました。

 よく見ると、液体が白っぽい色をしていて、手を入れる前の無色透明とは、はるかに違っていたのでした。

 「水が白くなっていますね。これは、泡ではないので、何でしょうか?」

 「たしかに、手を入れる前は透明の水道水でした。これは、いったい、どうしたことでしょうか?」

 「おかしいですね。なぜ、白くなったのでしょうか?」

 周りを囲んでいたみなさんが、口々に疑問を発していました。

 「わずか10数分の間に、なぜ、このように白くなったのか、不思議なことが起きている」

 こう考えながら、いつも手を入れて血流実験を行う際のことを思い出しました。

 これまでに、マイクロバブルの血流実験については何十回、何百回と行ってきましたが、このように液体が白くなることは一度もありませんでした。

 となると、いつもの被験者の方々とは何が違うのか、こう反芻しながら、違うのは「手である」、そうだ、その違いは、「手荒れした手」と「そうではない手」にあると思いました。

 「そうか、手荒れした手のなかから何かが出てきた可能性があるな!」

 こう思い始めた矢先、だれかが次のようにいいました。

 「これは、美容師さんの手から出てきたものではないですか?」(つづく)

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