いよいよ「黒い手」を改善するための実験が開始されました。仕事の始まる前に来て、その手を約10分間、マイクロバブル水槽に入れるだけで、何か変化が起こるかを調べる実験でした。

 じつは、この実験を行う少し前に、同じような実験をしていました。

 あるとき、学校の階段を下りていたら、下の方から暗い顔をした男子学生が、それこそを下を向いて元気なさそうに階段を上ってきていました。

 「元気がないようだけど、どうしたの?」

 思わず、声をかけてしまうほどでしたが、声をかけられた方の学生も意外で吃驚していました。

 「いや、別に、・・・・」

といいかけて、そのまま言葉を濁してしまいました。

 近くによって、それとなく眺めて、次のように尋ねてみました。

 「これから、私の部屋まで、ちょっとだけ来ていただけますか?」

 彼の手や首筋の一部に湿疹らしきものが見えたからでした。

 「どうですか、見たところ、『痒いところ』があるようですが、私の実験室で、それを改善する実験をしてみようという気持ちはありますか?」

 いきなり、こういわれて彼も一瞬困っていましたが、それを改善したいと思ったのでしょう、しばらく考えてから、「やってみます」というきっぱりした返事をいただきました。

 「そうですか、それでは、両親に相談して許可を得てきてください。それを踏まえて学校でも、その実験の許可を得ます。これらの同意と許可を得てから実験を行うことになります」

 「どのような実験ですか?」

 「それでは、今から実験室に案内しますので、見てください」

 こういって、実験室に行き、「この水槽にマイクロバブルを発生させて、約5分間、手を入れてください。それだけの実験です」

 「手だけですか?たったの5分ですか?」

 これなら簡単にできそうだと思ったのでしょうか、彼に表情が緩みました。

 「そうです。手だけでよいと思います。手だけでも、全身に、その影響が及びますので、心配いりません」

 こうして、月曜から金曜日までの昼休みに、わずか5分間ですが、マイクロバブルが発生している水槽に手を浸す実験が始まりました。

 慣れてくると、自分で実験室の鍵を開け、自分で装置を動かし、停止することができるようになりましたので、私は、それを見守ることにして、時々、「手を見せて、どうですか?」と尋ねるのみとなりました。

 その度に、「少しよくなったようです」といいながら、彼の方は、その改善を身体で確かめているようでした。

 それから、約二カ月が経過しました。最初は毎日来ていたのが、隔日になったときもありました。しかし、徐々に彼の表情が明るくなっていました。そこで、ある日、彼に、こう尋ねてみました。

 「そろそろ夏で、汗をかくころになってきたので、マイクロバブルのお風呂に入ることもよいのではないかと思いますが、いかがですか?」

 ところが、彼は意外な表情で、次のようにいってきました。

 「先生、その必要はありません。もうすっかり改善されましたので、昼休みにきて実験することも止めようと思います」

 これを聞いて、今度は、こちらが吃驚しました。

 「そう、そうであれば手を見せてください。それから、一番ひどかった首筋も見せてください」

 なんと、いずれも、すっかり改善されているではないですか。

 「そうだよね、もう実験をする必要がありませんね。よかったね!」

 こういって、彼の昼休みにおける「5分間実験」が終わりを遂げたのでした。

 そこで、彼女たちには、この経験を踏まえ、専用の装置を作ることにしました。今度は、5分ではなく、10分間だけ浸けていただく実験から行っていただくことにしました。

 しかし、最初の結果は、一進一退でした。上記の「5分間実験」のようにはうまく行きませんでした(つづく)。

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