日本経済のバブルが崩壊して危機的状況に陥って以来、その状態が持続しています。近頃は、それ以来の20年のことを,「失われた20年」という方が増えてきました。

 その20年について、日経新聞紙上で「特集」が組まれ、興味深い記事がいくつか掲載されています(記事「経済教室」)。

 そのなかで、慶応大学の池尾和人教授は、日本は、この20年で先進国化を果たしたのに、いまだ、「追い付け追い越せ型」の「」キャッチアップシステムを多くの分野で残したままであると指摘されています。

 バブル崩壊後も、その不良債権の後始末に追われ、「先進国」として取り組むべき課題に、真正面から取り組んでは来なかったというのです。 

 先進国をめざした時期には、進んだ技術を積極的に取り入れ、それを改良して、利益に結び付けていけばよかった(これを「後発的利益」と呼んでいる)。

 しかし、世界の最先端水準まで追い付いたら、自ら最先端を押し広げるしかなくなってしまいます。

 そして、後発的利益を得る段階においては、公教育においては初等中等レベルに重点を置き、その後は、企業内教育において人材育成を行うという方式が「非常に効率がよかった」と述べられています。

 しかし、先進国化した段階では、「独自のイノベーションを起こす」必要があり、その実現を担う人材育成が不可欠となるのですが、そのシステムが不十分であり、その実現を可能とする高等教育への重点的なシフトの必要性が明らかにされています。

 これらのイノベーションの必要性、それを担う人材の育成については、先に紹介させていただいたサローMIT名誉教授の指摘とよく一致していて、国内外のだれが見ても、その重要性においては同じ認識であることも明らかになり始めています。

 一方で、かつての日本は、主要な産業を自前で持つという、いわば「フルセット型」の産業構造を構築し、それで利益を得てきましたが、それが中国などの台頭によって困難になってきていると、指摘されています。

 かつて、日本は「アジアの工場」と呼ばれていましたが、いまや中国は「世界の工場」とまでいわれるようになり、「フルセット型」は中国の方でより進展しているのです。

 そして、この10年は、自動車・電気に特化した外需産業に依存しすぎ、この「一本足産業」が北米の需要不振で、その脆弱性を見せるようになってきました。

 物を生産しても、買うところが買わなくなれば、たちまち物が余ってしまう、すなわち「過剰生産」を生むという弱い構造を形成するようになっていったのです。

 同氏は、この20年の低迷の根本的原因は、日本の産業構造が、「中国の台頭に代表される新たな現実に十全に対応したものなっていないことにある」と結論付けています。

 先進国化したにもかかわらず、その産業構造や人材育成においては、その実現が起きていない、したがって、イノベーションも起こり得ない、これが「失われた20年」の現実であるといっているのではないかと思います。

 さいごに、同氏は、「海外移転という形で一部の産業分野から撤退していくときに、どのような産業を中心に国内で雇用と所得を確保していくかという課題に直面している」と指摘し、それは、「十年前からの課題であり、宿題である」と強調されています。

 以上を踏まえますと、次のようなことがいえます。

 ①国内での雇用と所得の確保を可能とするイノベーションをいかに起こすか。そのイノベーションは、わくわくして楽しさを与えるものである必要がある。

 ②世界の最先端をこじ開け、新たなキー・テクノロジーを持続的に開発できる人材をいかにして輩出させるか。その具体的教育システムはいかなるものか?

 ③日本における産業構造の再構築と発展をいかに実現するか?

 これらを実現するためには、新たな発想が必要であり、その「ブレイクスルー」が大いに期待されているように思われます。

 いよいよ、日本も「正念場」ですね。


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