マンデラ大統領はラグビーチームのキャプテンとしての哲学や資質について、その本質的問いかけをしました。

そして、チームの一人一人を最高にやる気を出させるにはどうすればよいか、それについてもズバリ質問したので、ピナールは戸惑うばかりでした。

ますます緊張し、無言のままで何と答えればよいかわかりませんでした。

これを見て、大統領は、「このような難しい話は止めようか」と話題を変えようとしますが、ピナールは逆に、その話題に必死で応えようとします。

しかし、その「ひらめき」が何かについて、具体的には答えることができないままでしたが、なんとか試合前の選手の様子を語ろうとします。

大きな試合の前には、みな無口になり、話をしようとはしなくなるので、会場に向かうバスの中では、みんなが知っている歌を流すようにしているといったのでした。

ここで、マンデラ大統領は、その歌について、再び感動的な体験を紹介します。それは、バルセロナオリンピックの開会式に招待されたときのことで、彼に対して会場のみんながマンデラ大統領のために大合唱をしたことを語ります。

その歌は、「なんという歌ですか」とピナールは尋ねます。

それは、「神よ、アフリカに祝福を!」という歌であり、その感動を素直に打ち明けます。ここで、ますます大統領の言葉がピナールの胸の中にしみ込んでいきました。

そこで、大統領は、いよいよ次の本音を語りかけたのでした。

「この国にも『ひらめき』が必要である。この新しい国を築き上げるために、国民から持てる以上の力を引き出せばならないのだ!」

国民から持てる以上の力を引き出す、これは、ピナールにとって、チーム全員の力を引き出し、ワールドカップで優勝することを意味し、それを大統領から悟らされたのでした。

一方、大統領にとっては、ピナールのチームが持てる以上の力を引き出して優勝することこそ、国を築く、最初で最高の方法だったのです。

ここには大統領の深い読みがあり、それを可能とさせる度量がありました。

そこで、自らの30年に及ぶ獄中生活のなかで得た教訓をピナールに教えます。

その「ひらめき」を得るのに最も良い方法は、「他人がなした偉業に触れることだと思う」といいます。

そして、獄中の絶望のなかから、「ひらめき」を得て立ち上がった自分の経験を語り、それが、ある詩人の詩であったことを示します。

この会談を終え、ピナールは、その刺激の大きさのあまり、茫然として帰路につきます。運転手の彼女には、「何を話をしたのか」と聞かれ、次のように一言つぶやきます。

「ワールドカップで優勝してほしいといったのだと思う」

大統領は、チームリーダーとしての哲学と「ひらめき」のことを語ったのであり、一言も「優勝せよ」とは言わなかったのですが、ピナールにとっては、それが「優勝をすることを意味していた」のでした。

ここで初めて、チームの主将が自ら優勝することについて、認識を深め、その重要性を理解したのでした。

この認識と理解によって、ピナールは、リーダーとしての「ひらめき」を得るようになり、みごとに変身を遂げるようになっていきました。

これは、大統領と「同じ闘うひらめき」を持つことができる「戦士」の誕生を意味していました(つづく)。

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