田所博士の「日本沈没」は、彼の予測の通りに進行していきます。彼を中心にして、日本沈没の予測を行う「D‐1」計画が、当時の山本首相のもとで秘密裏に開始されました。

しかし、政府の中には、それを疑い、いぶかしる者がすくなくありません。そのおり、関東大震災をはるかに上回る「東京大地震」が起こり、首都東京は壊滅的打撃を被ります。

これでしばらくは、地震も起こらない、ましてや日本沈没など起こらない、もしそれが起こらなかったときには、責任を取るのかと、首相に刃向う者まででてきました。

このとき、山本首相は、次のように言い返します。

「もっと、おかしな学者と呼ばれる方が、大騒ぎをして、日本沈没が起こるといっていたなら、国民も少しは警戒して、今度の災害に備えてくれたはずである。そうであれば、360万人という尊い命を無くすことはなかった。もっと少ない犠牲で済んだはずである」

こういわれた内閣の幹部は、黙ったままでした。

こうして、日本沈没はより明確になり、D-1計画は終わり、国民を日本から同脱出させるかの「D-2」計画が開始されます。

この時点で田所博士の役割は終わってしまいましたが、その最後の仕事は、おかしげな学者としてマスコミに登場し、日本沈没を予言することを自ら進んで成し遂げます。

これは、政府が秘密裏に進めた作戦の一つで、いわゆるガス抜き策としてなされます。この時の田所博士の演技は真剣そのものであり、おまけとしてテレビの生放送中に学者とけんかまでして、その役割を全うしようとしました。

日本沈没を前にして、田所博士のできることは、そのようなことしかなかったのですが、彼は、その役割を期待以上に演じて見せたのでした。

この事件以降、田所博士は、その最後のシーンまで登場してくることはありませんでした。映画では、その最後のシーンが山本首相との短い会話になっていました。

そのシーンを再現してみましょう。

「わしは、日本沈没を発見しないほうがよかったのではないかと思う」

「そんなことはありません。あなたのおかげで、何千万という人々の命が救われたではないですか」

こういわれた田所博士は、少し気持ちが和らいだようでした。しかし、もうその時には、日本列島の大半が海に沈んだ後のことでした。

いくらスケールの大きい考えを持った田所博士といえども、日本沈没という巨大な出来事を前にしては、どうすることもできなかったのです(つづく)。

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