大江健三郎さんの「弔辞」に大いに刺激を受け、小説家、劇作家の井上ひさしさんの作品を読み始めました。

私は、どちらかというと、一人の作家の作品を続けて読むことを好むタイプです。そこで、アマゾンという便利な本の購入方法を教えていただき、それで購入したのが、『一週間』という本でした。

大江さんも、この長編小説のことを井上さんへの弔辞で触れられていましたが、なかなかスリルがあっておもしろい本でした。

なにせ、60万人の日本人捕虜を救うために1人でロシア赤軍に立ち向かった主人公の話ですから、これは知恵の闘いでした。

この「ああいえば、こう、こうすれば、ああ」という知恵とアイデアで、ドンデン返しの連続であり、これを、じつにおもしろく展開させていく物語でした。

とくに、「水曜日」の章の後半あたりから、その話がおもしろくなり、そのハイライトは、日本人軍医の収容所からの逃亡記でした。

この逃亡距離はなんと約3500km、医者という特技が、その逃亡を助け、あれよ、あれよというまに、それこそ苦難を乗り越えての逃亡ではなく、列車と車による楽々逃亡でした。

主人公の修吉は、それを取材し、脱走ということが、いかに大変で困難を極めるものであったかを新聞記事にして、「脱走など止めろ!」と自覚させることが、上からいわれたことでした。

ところが、実際に起きたことは、これとはまったく反対で、おまけに、この度の途中で、あの有名なレーニン直筆の手紙を手に入れるという幸運に恵まれます。

これは、ロシア赤軍の上層部にとって大変な問題でしたので、最後は、この手紙の争奪を巡廻っての知恵比べが繰り広げられるのですが、これが本当におもしろ書かれていて、どんどん引き込まれていくのです。

「さすが、井上ひさし!」、この脱走劇に関する展開は、みごとというしかありません。私も、この最高におもしろい下りを一気にマイクロバブル風呂の中で読み進めました。

それにしても、日本人収容所のこと、ロシア語のこと、ロシア赤軍のこと、さらには、ロシア大使館が疎開していた箱根の強羅ほてるのことなど、それらの博識にも驚嘆しました。

よく調べられていて、そこにリアリティがあることに本当に感心させられました。さすがプロ作家ですね。

そして最後は、肝心のレーニンの手紙が粉々になって終わりという「落ち」も素敵なものでした。

作家井上ひさしさんは、小説であれ、劇作であれ、それを読み、見ているときに夢中になり、それを読み終え、見終えたときに、「ああよかった」と何らかの希望を与えることができれば、「それは成功した」といえるのだそうです。

一冊の本を読み終えた後に、次の一冊を読んでみようという気持ちになれば、その本はよい本であったということになります。

この本を夢中で読む、劇を夢中で観る、この時間は井上自身によって「時間のユートピア」と読ばれていますが、この時間をいかに有効につくり上げるか、ここに作者の力量が問われる部分があるのだと思います。

『一週間』の次の「ユートピア」は『ふふふふ』でした。前作の『ふふふ』と同じようにおもしろい話が満載されていましたが、その内容は、より明確で小気味良いものでした。

それから、次の「ユートピア」は、『井上ひさし希望としての笑い』、高橋敏夫著でした。これは、井上作品の評論集ですので、その全容を理解させていただきました。

「希望としての笑い」、作者が一貫して追求された重要なテーマでした(この稿おわり)。

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